淋しいのはお前だけじゃない
9月26日(水)
医者、というのは、どうも昔から苦手である。
体調が悪くて病院に行くと、たいていは対症療法の薬が処方されて終わる。
「やはり、ストレスとかも原因のひとつでしょうか」
「それもあるでしょうね」
「じゃあ、そのストレスをなるべく軽減するには、ふだんからどういうことに気をつければいいでしょうか」
「さあ、それはわからんよ。私の専門ではないからね」
ええええぇぇぇぇぇっ!!!
ハシゴをはずされた感じがするのは、私だけだろうか?
例えばですよ、学生が私のところに相談に来たとする。
「最近、将来のことが不安になって、何も手につかないんです。どうしたらいいでしょうか」
「さあ、それはわからんよ。私の専門ではないからね」
と私が答えたとしたら、学生はどう思うだろう。ふざけんな!と思うだろう。
私は、わからないなりにも、その学生と一緒になって考えながら、出口の見えない学生の悩みに、少しでも光がさすように努力するだろう。
「むかし、あなたと同じ悩みを抱える人がいてね、その人は…」
とか、
「むかし、私もあなたと同じ悩みを抱えていてね…」
とか、少しでもヒントになるようなことを言えば、悩んでいる方も、だいぶ楽になると思うのである。
人は、「悩んでいるのは自分だけじゃない」と思った時点で、その悩みの大部分から解放される、と思うのだ。
だがそのことを理屈ではわかっていても、自分ではなかなか自覚しえない。というか、認めたがらない。別の人に言われてはじめて、その悩みから解放されるのである。人には、そういう人が、必要とされるのである。
たぶん「先生」とは、そういう存在でなければならないのだ、と思う。
…とここまで書いてきて、ぜんぜん関係がないが、TBSの昔のドラマ「淋しいのはお前だけじゃない」(1982年)を思い出した。市川森一脚本、西田敏行主演のドラマである。
とても地味なドラマだが、たぶん、市川森一の最高傑作だと、私は思う。事実この作品は、当時視聴率はふるわなかったものの、第1回向田邦子賞を受賞している。
サラ金の取り立て屋をしている沼田(西田敏行)が、サラ金会社の影のオーナー(財津一郎)に、旅役者(梅沢富美男)と駆け落ちした自分の女(木の実ナナ)から慰謝料2000万円を取り立てるように命ぜられるが、駆け落ちした2人に同情した沼田は、2人を逃がそうとして失敗し、借金2000万円の連帯保証人になってしまう。そして沼田は、借金を返済するために、ほかの債務者とともに大衆演劇の一座を結成する、という内容である。
中学生のときにこれを見て、「なんと地味なドラマだろう。しかしなんと面白いドラマだろう」と思った。当時、「池中玄太80キロ」の軽妙な演技で人気を博していた西田敏行のイメージが、いい意味で裏切られた。
借金に追われ、社会の敗者となった人たちが主人公である。いわば「ダメ人間」の彼らが、縁もゆかりもない大衆演劇の一座を旗揚げして、次第に自分自身を取り戻してゆく。その悲喜こもごもの人間模様は、感動的ですらある。
「人間って、ダメな存在だよな。でも、愛すべき存在だよな」
そんなことを思わせてくれる。
考えてみれば、それこそがいま、「人間」に対する私のスタンスとなっているのだ。
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