疼痛温泉
9月1日(土)~2日(日)
今年3月に卒業した卒業生たちと、隣県の温泉に行く。
先日、彼らと飲んだときに、「今度は温泉に行こう」という話しをしていて、それをたまたまそこに居合わせていた私が聞いていたので、誘わないと悪いだろうと、気を遣って誘ってくれたらしい。
飲み会のときに、私は図々しいことに、「どうせ行くのなら、S温泉のIという旅館がいい」と、アドバイスをしてしまった。そしてその通り、その旅館を予約したという。
まあ、誘ってくれることは今後もうないだろうと思い、ありがたく参加することにした。
だが心配なのは、昨日からの痛風の発作である。
一夜明けて、少し痛みはおさまったが、まだ疼痛といった感じである。
こういうとき、温泉で温めていいものかどうかわからない。
医者には「冷やす方がいい」と言われているが、温泉は「関節痛に効く」ともいう。
まあ、「湯治」という言葉があるくらいだから、むしろよいのだろう。
夕方、車で1時間ほどの、温泉旅館に到着する。
土曜日のせいか、旅館の目の前の駐車場はいっぱいである。
番頭さんが近づいてきた。
「申し訳ありません。前の駐車場がいっぱいなので、第2駐車場に止めていただけないでしょうか?」
「どこにあるんです?」
「この坂の上の方です」
えええぇぇぇ!!坂の上の駐車場ということは、そこから歩いて降りてこなければならないということか!
ふだんなら何でもないのだが、なにしろ私の左足は疼痛なのである。
仕方がない。車を第2駐車場にとめて、やや急な坂道を歩いて降りてゆく。
(痛いタイタイタイタイタイ!)
と、心の中で叫びながら、ようやくフロントに到着。
先に来ていた卒業生のT君が迎えにきてくれた。
「先生、お疲れさまです」
「今日は何人来ているの?」
「卒業生は全部で6人です。先生を入れて7人です。男子は僕だけです」
T君の案内で、まず部屋に向かう。エレベーターで6階に上がる。
この旅館はとても大きく、部屋数も多い。
「部屋はどこなの?」
「6階の一番奥の部屋です」
エレベーターからいちばん遠いところにある部屋らしい。
直線距離にして100メートルはあるだろうか。
(痛いタイタイタイタイタイ!)
と心の中で叫びながら、100メートルほど廊下を歩き、ようやく部屋に到着。
「夕食までまだ時間がありますから、温泉に入りましょう。露天風呂もありますし」
ということで、まずは大浴場に行く。
また100メートルの廊下を歩いて、エレベーターで1階に行く。そこから1階のフロアを横断し、また別のエレベーターに乗り換えて、地下2階に向かう。そこが大浴場である。
なにしろ広い旅館なのだ。足の痛い身にとっては、移動だけでひと苦労である。
しかし、温泉に入れば足の痛みも治るであろう、ということだけを信じて、大浴場に向かう。
大浴場を出たあと、せっかくだからということで、今度は露天風呂に入ることにする。
「露天風呂は、いったんこの大浴場を出て、さらに階段を下った一番下のところにあるそうです」
大浴場と露天風呂が同じところにあるのかと思ったら、そうではない。いちど浴衣を着て大浴場を出て、長い長い階段を下りていったところに、露天風呂があるというのだ。露天風呂を川の近くの景色のいいところに作っているのだから、当然そうなる。
(痛いタイタイタイタイタイ!)
と心の中で叫びながら、長い長い階段を一歩ずつ下り、ようやく露天風呂に到着。すでにもう汗だくである。
露天風呂に入ったあと、また長い長い階段を上り、エレベータで1階に行き、そこからまたエレベーターを乗り換えて、6階へ。さらに100メートルの廊下を歩いて、ようやく部屋に戻る。部屋に戻ったころには、また大汗をかいている。
(まったく、汗を流しに来たのか、汗をかきに来たのか、わからないな…)
午後7時、夕食の時間である。
夕食会場に行くと、
「バイキング形式です」
という。
えええぇぇぇぇ!!てっきり、黙って座っていれば料理が出てくるものとばかり思っていた。
バイキングってことは、自分で歩きまわって、好きなものをとりに行け、ということか?
これがふだんなら、好きなものが食べられる、ということで手放しで喜べるが、足が疼痛の身にあっては、少々億劫になる。
(痛いタイタイタイタイタイ!)
と心の中で叫びながら、テーブルと料理スペースの間を往復する。
誤解のないように書いておくと、料理も美味しかったし、温泉もよかったのだ。
それに、夕食後に行われた抽選会では、100人ほどのお客さんを前に、なんと1人だけ地酒も当たってしまい、十分に楽しめた1泊2日だった。
ただ、こっちのコンディションが悪かったばっかりに、少しばかり、痛みがともなってしまった。
結論。健康になるために温泉に行くよりも、健康な人が温泉に行った方が、はるかに楽しめる!
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