キョスニムがリユースされた日
10月20日(土)
展示最終日。
この日は同時にホームカミングデーであり、そこでボランティア活動のパネル展示を担当することになっていた。
「ホームカミングデー」とは、大学を卒業したOBたちに、もういちど大学に来てもらおう、という職場の企画である。折りしもこの日は、大学祭の1日目でもあり、職場にたくさんのお客さんが来るので、それを見込んでの、言ってみれば「抱き合わせ企画」である。
つまり、この日は2つの展示に同時に関わることになったのである。
前日の金曜日(19日)。
展示職人のSさんが、仰天提案をする。
「明日は、いよいよ展示の最終日ですよね」
「はい」
「大学祭だから、お客さんもたくさん来ます」
「ええ」
「お客さんを呼ぶには、目立たなければなりません」
「そうですね」
「あれを使いましょう。『キョスニム』の看板」
「何です?」
「ほら、昨年の大学祭の屋台で、学生たちが作ってくれた看板があったでしょう」
「ええ」
「あれを、宣伝用の看板に使うのです」
なんと!昨年、一昨年と大学祭の屋台で使った看板を、展示の宣伝のためにリユースする、というのである。
こんどは私が提案する。
「展示の入口のところ、あれ、わかりにくいですよね。入口のところに、横断幕みたいな看板を作ったらどうでしょう」
…ということで、この日は、展示最終日のためだけの、宣伝のテコ入れが行われたのであった。
さて、翌土曜日。
朝9時半に、職場に集合する。ホームカミングデーのパネル展の準備をするためである。
東京から妻も駆けつけ、お手伝いしてもらうことにした。
3号館5階の教室一部屋分が、パネル展示スペースである。3つの団体が、1つの教室の中で、パネル展示を行うことになっていた。
卒業生のT君が思いを込めて作ったポスター大のパネルを、9枚並べていく。
しかし、何か、パネルだけではなく、もう一つインパクトがほしいものである。
「また、ひとつ思いついちゃった」と私。
「なんです?」とT君。
「ボランティア活動をしている写真のデータ、たくさんあるよね?」
「ええ」
「職場からパソコンとプロジェクタを借りてきて、その写真を延々とスライドショーにして壁に映しだす、っていうのはどう?」
「やってみましょう」
…ということで、急遽、職場からパソコンと携帯用プロジェクタを借りて、設置してみる。
壁に投影してみると、これがなかなかいい。
「やってみるもんですねえ」
あとは、お客さんを待つばかりである。
さて、午前11時。大学祭とホームカミングデーが始まる時刻である。
ここからが、忙しい。
「最終日の展示」の様子を見に行ったり、、ホームカミングデーのパネル展示の様子を見に行ったり、と、別々の建物の1階と5階を何度も往復する。
また、合間を見て、知っている学生のいるサークルの出し物に顔を出す。
手芸サークル、茶道部、文芸部、書道部、アカペラサークル、国際関係論ゼミの屋台、など…。
まるで、政治家の地元まわりのような感じである。おそらく、これほどこまめにまわった教員は、ほかにいないだろう。
昨年、一昨年と、大学祭で屋台をやった者の経験からすると、知り合いが来てくれる、というのは、それだけで嬉しいものなのだ。
客足はなかなか伸びなかったが、嬉しかったのは、卒業生が数名、見に来てくれたことである。スカイプで卒論指導をした学年だ。それだけで、私は満足した。
では、5階のパネル展示はどうか?
…お客さんが、まったく来ない。まったく来ないのである!
それもそのはずである。ホームカミングデーは、1号館の1階で行われていて、パネル展示は3号館の5階で行われているからである。つまり、まったく離れた場所で行われているのだ!
どう考えても、わざわざパネル展示を見に、1階にいたお客さんが別の建物の5階の部屋まで足を運ぶことはない。
しかも、ホームカミングデーの行事が進行している最中、ずーーーっと、「放置プレイ」である。だーれも様子を見に来ない。
私たちはまだいい。可哀想なのは、「模擬裁判」のパネル展示をしていた学生たちである。
ホームカミングデーの日にパネル展示をしてくれと上から依頼されて、前日から、かなり凝った準備をして、当日も、10人ほどの学生たちが、ずーっと、待機していた。なかには、頑張りすぎて鼻血を出した学生までいたぞ!
私は、学生たちに聞いた。
「お客さん、来た?」
「いえ、まったく来ません」学生たちは、悲しそうに答えた。
せっかく、あんなに準備をしたのに、なんだかとてもせつなくなってきた。
さらに、である。
午後4時。パネル展示の終了時間。私たちは、卒業生のT君や3年生のTさんと一緒に、撤収をはじめる。
驚いたのは、「模擬裁判」の学生たちが、自分たちの展示物を撤収するのみならず、誰に頼まれたわけでもないのに、教室をもとの状態に戻すことまでしてくれたことである。
せっかく準備した展示に客が誰も来なかったにもかかわらず、文句ひとつ言わずに、黙々と、自分たちの管轄以上の後片付けをしてくれている。
こいつら、なんていいやつらなんだ!
私は泣きそうになった。
(君たち、12月の模擬裁判の公演も頑張れよ!俺は予定が入っていて今年は見に行けないけど)
と、心の中で応援した。
午後5時すぎ、すべての行事が終わり、ドッと疲れが出た。
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