味のしない芋煮
10月2日(火)
雨で、やや気分がどんよりである。
午後、何かのついでに、職員さんと芋煮会の話になる。
「今日は、芋煮会をしているグループが多いみたいですよ」と私。
「そうですか、楽しそうでいいですねえ」
「そうでしょう。でも私は、芋煮会運がないんですよ」
と、かくかくしかじか、昨日この日記に書いたようなことを話すと、
「何もそんなに卑屈にならなくても…。たしか、私たちのグループでも10月×日に芋煮会をやることになっていたと思いますよ。よろしかったらご一緒にいかがですか?」
「10月×日ですか?」
「はい」
「その日は仕事です」
「そうですか」
「ほら、やっぱり芋煮会運がないでしょう」
「ほんとですねえ」
というより、そもそも私が他所様の芋煮会にほいほいと参加できるような人間ではない。
夕方の仕事の後、やや遅れて懇親会場に行く。
今日は、職場の偉い方たちと会食である。
はじめてお目にかかる方も多く、私が最も苦手とするタイプの宴会である。
それぞれ自己紹介なさるが、どの方もすごい業績をあげられた方ばかりで、ますます肩身が狭くなった。
ふだんの私なら、いたたまれなさに死んだような目をしてしまうのだが、今日は、大人としてとしてちゃんとふるまおう、と思い、終始、ピクニックフェイスを心がける。
ピクニックフェイス、ピクニックフェイス、と。
だがこういうときに、偉い方々にお酌してまわったり、お酌をしながら話しかけたりすることができない。そこが私の限界である。
目の前に出されたお椀のふたを開けると、芋煮だった。
(お、ようやく芋煮だ!芋煮にありつける!)
食べてみるが、ぜんぜん味がしない。
以前、味のしない鰻丼を食べたときと同じ感じだ。たぶん、この雰囲気に完全にやられてしまったのだな。
まったく、私は本当に芋煮運がない人間だな、と、苦笑した。
唯一、ふだんお世話になっている幹部職員の方が、「先生の研究、面白いですねえ」と言ってくれたことが救いだったくらいか。
(まったく、相変わらず座持ちの悪い人間だなあ、私は)
懇親会が終わり、途中まで、上司と帰る方向が一緒だった。
去り際、上司が言う。
「今日は忙しいのにありがとう。これからも手当以上の仕事、お願いしますよ!」
「はあ」
まったく、憎めない人だなあ。
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