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面川支配人の面倒な性格

10月23日(火)

ここ最近、調子に乗りすぎていたようで、周りの親しい人々がどんどん離れていくような感じがして、反省。

このところ身辺雑記を細かく書きすぎたので、反省して、誰にもワカラナイ話を書く。

山田太一脚本、田宮二郎主演のドラマ「高原へいらっしゃい」(1975年)は、再三書いているように、私がいちばん好きなドラマである。

子供の頃に見ていた時と、いま、この年齢になって見るのとでは、ずいぶん見方が違う。

このドラマの主人公であるホテルの支配人、面川(田宮二郎)が、かなり面倒くさい性格なのだ。

何かというと、すぐに思い悩み、すねる。

それを、まわりの従業員たちがフォローしたり、なだめたりする。

子供の頃に見ていたときは、そんなこと、あまり感じていなかったのだが、いま見ると、そのことばかりが目立ってしまう。

たとえば、最終回のシーン。

ホテル経営がようやく軌道に乗った。ホテル経営が軌道に乗ったあかつきには、別居中の妻を迎えに行く、と面川は約束していた。

しかし、ホテル経営が成功したにもかかわらず、面川は、妻を迎えに行こうとはしない。

従業員たちは、やきもきする。

面川の片腕であり、やり手の経理担当である大貫(前田吟)は、面川の煮え切らない態度を見かねて、東京にいる面川の妻(三田佳子)のところに行き、「ホテルは成功しました。高原にいる面川さんのもとへ戻ってください」と、面川の妻を高原に呼び戻そうとした。

だが、面川の妻は、首を縦に振らない。不審に思う大貫に、理由をこう説明する。

「面川が自分で迎えに来るべきことじゃないんですか?大貫さんが頼まれて来たっていうんだったらともかくも、自分は知らん顔しててまわりの人が気を利かしてくれるのを待ってるなんて、人をバカにしているじゃありませんか」

…たしかにそうだ。

結局、面川の妻を高原に呼び戻すことができなかった大貫は、こんどは面川に、直接奥さんに会いに行くように説得する。

しかし面川は、首を縦に振らない。

「なぜ、こっちから頭を下げて、戻ってきてもらわなければならないのか」と。面川にとって、こちらからアクションをおこすことは、屈辱なのである。

いったんすね始めると、相手がアクションを起こすまでは行動しない、という面倒な性格は、私の性格そのものである。

面川の面倒な性格に、ついに大貫はキレる。「もう勝手にしろ!」

だが従業員たちは、やはり心配である。どうにかして、面川の妻をこちらに呼び戻してあげようとして、あれこれと策を練る。だが、すっかりサジを投げてしまった大貫が言う。

「あの人はねえ、こっちが心配すると図に乗るんですよ。冷たくしていれば、そのうち自分で動き出しますよ。そうそうあんなのにつきあってられませんよ!」

…といいつつ、大貫は再三、面川の説得にあたる。だが、面川も折れない。

しかし、従業員たちは優しい。

何とかして面川が妻を迎えに行きやすくするように、小芝居を打つのである。

そして最後は、人生のベテラン・高間シェフ(益田喜頓)による、説得である。

「みんな気にしとるよ。だからあなたのために芝居したんだ。いまどきねえ。芝居までして、上役の身の上のことを心配するような従業員は、日本広しといえども、この高原にしか、いないんじゃないかな」

「…そうですか」

みんなの気持ちにようやく気づいた面川は、妻を迎えに行くのである。

面倒くさい上に、単純な性格である点も、私の性格そのものである。

田宮二郎は、一見人当たりがよさそうに見えて、実は面倒くさい性格である、という人間を、じつに見事に演じている。

脚本の山田太一も、意図して、この面倒くさい性格の面川というキャラクターを設定したのだろう。

最近、つくづく思う。子供よりも、大人の方が、面倒くさくて厄介な人種なのだ。自分を見れば、一目瞭然である。

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