幕末大学生
11月27日(火)
今年初めての、まとまった雪である。
午前中、研究室に見慣れない学生2人がやってきた。
「あのう…これを拾ったんですが」
見ると、1枚の古銭である。かなり朽ちている。
「江戸時代のお金だねえ」と私。「『寛永通宝』って読めるね」
「やはりそうですか」
「どうしてこれを私に?」
「私たち、先生の授業を受けている者です」
今期は、1年生向けに「むかしのお金」についての授業をしていたのだった。
「どこで見つけたの?」
「中庭です。あの食堂があるところの」
構内の中庭、といえば、人通りの多いところではないか。
「ふつうに落ちてたの?」
「ええ。道に落ちてました。拾ってから先生の授業を思いだして、もしや先生が落とされたのではないか、と思いまして…」
なるほど、そういうことか。
普通の人なら、こんな朽ちはてた古銭など、落ちていてもまったく気づかないようなシロモノである。彼女たちは、私の授業でさんざん古銭の写真を見せられていたから、それで道に落っこちていた古銭を認識できたのだろう。
「よく見つけたねえ」私は感心した。「でも私はべつにコレクターではないからねえ。私が落としたのではないよ」
「そうですか」
それにしてもよくわからない。あのあたりは、べつに土を掘り返しているわけでもないから、土の中から古銭が出てきた、というわけではない。
では、コレクターが、あの辺を歩いていて、うっかり落としたのだろうか?
それも考えにくい。この古銭はすっかり朽ちてしまっていて、コレクターが集めるような古銭とは思えないからである。
では江戸時代からあの場所に落ちていた1枚の「寛永通宝」が、100年以上も誰にも気づかれずに、ずっとその場所にあったまま朽ちはててしまったのか?
それは絶対にありえない。
ふと、頭をかすめる。
まさか、タイムスリップか?
幕末あたりの人間が、現代にタイムスリップして、この大学にあらわれる。
そのときに、懐に持っていた「寛永通宝」をうっかり落とした、とか。
…とすると、ひょっとしていまこの構内のどこかで、幕末からタイムスリップした人間が闊歩しているのではないだろうか?
そう!「仁 -JIN-」の逆バージョンだ!題して「逆仁 -GYAKU JIN-」。
あるいは、むかしのドラマ「幕末高校生」の逆バージョン!
そんな妄想が広がった。
うっかりその妄想を学生に言いかけたが、学生にバカにされそうなので、言わなかった。
学生たちが帰ったあと、よし!これをもとに、幕末の浪士がタイムスリップして現代の大学生になる、という小説を書いてみようか、と、一瞬思ったが、あまりにもありふれた展開になりそうなので、思いとどまった。
そんなおバカなことを妄想している暇があったら、本業の原稿を書かなければならないのだ!〈原稿零枚〉
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コメント
本日、電車内にて聞いた高校生の会話
草むしりの時、50円玉に拾ったんすけど、真っ黒なんすよ。
で、自販機で使おうとしたら戻ってくるんで。
人に払うならいいかと思って。
ジュース買うときに出したら「これ、別の50円玉に変えてもらえますか」って言われて。
結局、使えなかったんで、外に放って捨てちゃいました。
これですよ。
このようにして、掘り出された古銭が結局使えずに、地表面に投げ捨てられる。
しばらくして掘り返されるが、やはり捨てられる。
これが昔からずっと繰り返されているので、寛永通宝だって土中でなくて、地面の表層に落ちているんじゃないかなあ。
「人の行動パターンなんて何年たってもそんなに変わらない」と直感した、そんな一日。
投稿: 聞き耳こぶぎ | 2014年3月 8日 (土) 17時17分
これまたずいぶん古いネタに投稿してくださいましたね。
このエピソード、よく覚えているなあ。そのことに驚きました。
たまたま聞いた話が、1年以上前の記事と結びつくなんて、ブログを書いている人間冥利に尽きます。
投稿: onigawaragonzou | 2014年3月 9日 (日) 01時09分