« 腕を上げたか | トップページ | 長恨歌 »

冬のはじまり

11月14日(水)

めっきり寒くなった。いよいよ冬支度が必要になってきた。

タイヤ交換、灯油の購入、1人鍋の材料の準備…。

またあの長い冬がやってくるのか。

「冬」のはじまるこの時期に思い出すのが、南木佳士の短編小説「冬への順応」である。

前にも書いたように、この小説は、「浪人ノスタルジー小説」である。

主人公の「ぼく」と千絵子は、小学校時代の同級生で、18歳の予備校生のとき、2人は偶然に再開する。2人とも、浪人生だった。

そこから2人は、何となくつきあい始める。といっても、2人は自分たちを恋人どうしと意識していたわけではない。いや、意識していたのかも知れないが、それをお互いが表立って口にすることはなかった。

1浪の末、千絵子は「教会のある私立大学」の文学部に合格する。「ぼく」は、東京の国立一期校の医学部に落ち、一度も見たことのない、東北の二期校に新設された医学部に入学することになる。

日本海に面した、寒々とした土地で暮らすことになった「ぼく」は、東京の大学を受験しなおすための勉強と、千絵子からの手紙を待つだけの下宿生活にあけくれることになる。

二週に一度の割合でやってくる千絵子からの手紙には、大学生活の近況と、その最後には毎回異なったデザインの診療所の絵が丁寧に描かれていた。「山の診療所の医者になる」のが、「ぼく」の夢だった。千絵子はその「ぼく」の夢を、絵に描いてくれたのである。

だが次第に2人の距離は離れていく。千絵子はテニスサークルに入り、夏休みには語学ツアーでイギリスに行くなど、忙しい大学生活を謳歌するようになる。1年生の夏休みが終わり、秋が来ると、千絵子からの手紙はめっきり減り、枚数も少なくなる。手紙の最後には、診療所の絵ではなく、イギリスの大学の時計台や、テニスラケットの絵が描かれるようになった。

そして冬休みに「ぼく」が東京に戻ったとき、ある「決定的な出来事」が起こり、「ぼく」は、千絵子の目の前から、姿を消すことにするのである。

最初は頻繁に来ていた千絵子からの手紙が、次第に減っていき、その内容も乾いたものになっていく。そこから「ぼく」は、千絵子の無意識ともいえる心境の変化を敏感に感じとり、自分から身を引くことにする。おそらく千絵子には、何のことやらまったくわからないままに、である。このあたりが、私が「浪人ノスタルジー小説」と評するゆえんである。

2人は互いの気持ちがすれ違ったまま、10年後、思わぬところで再会することになる。

そしてまた、「冬」の別れがおとずれる。

「冬」がはじまると、この小説を思い出し、思わず手にとって、読みかえしてしまう。

|

« 腕を上げたか | トップページ | 長恨歌 »

書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« 腕を上げたか | トップページ | 長恨歌 »