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ディープな福岡

12月21日(金)

午後、無事に調査が終わり、調査団が解散した。

夕方、天神に向かう。

高校時代の親友で、今は福岡に住んでいるコバヤシと久しぶりに会うのである。

コバヤシといえば、このブログの読者なら、もうすっかりおなじみであろう。

昨年8月の福岡では、コバヤシが、1次会の美味しい居酒屋、2次会の雰囲気のいいバー。3次会の屋台という、完璧なコースを計画してくれ、大満足の夜だった。

そのことを、いつだったか、高校時代の1年後輩のモリカワさんに話すと、

「すごいですねえ。先輩のためにコバヤシ先輩がそこまでするなんて、まるでデートコースみたいじゃないですか!」

そういわれるとキモチワルイが、たしかにそこまでもてなしてくれようとする友人は、そうはいない。

今回の1次会は、天神駅から春吉通りという道に入ったところにある、ごくふつうの居酒屋である。家族3人(夫婦と、高校生の息子)で切り盛りしているような、地味な居酒屋であった。

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左上:タイラギ酢、右上:刺身盛り合わせ、真ん中左:鶏の塩焼き、真ん中右:あらかぶの煮付け、下:おでん(牛すじを含む)。

さて問題です。この中で、痛風によくないのはどの料理でしょうか?

答え、全部悪い!!

昨日、居酒屋で料理を控え、お酒を1滴も飲まなかったのも、今日のこのためである!料理があまりにも美味しかったので、私は焼酎を少しだけ飲むことにした。

…すみません。摂生しようとしたけれど、ムリでした。

いろいろと話をしていると、コバヤシの携帯にメールが入った。1年後輩のモリカワさんからである。

モリカワさんからは、めったにメールが来ないが、来るときは決まって、飲み会をしましょう、という誘いである。今回も、「忘年会をしたいので、コバヤシ先輩の予定を教えてください。M先輩(私のこと)がコバヤシ先輩に会いたがっていたので、ぜひ来てください」というメールだった。

「東京でやるんだろ?行けるわけないじゃん」とコバヤシ。

「おい」私がひらめいて言った。「いま、俺が福岡で一緒に飲んでいるところを、写メで撮って、モリカワさんに送ってやろうぜ。きっとビックリするぜ」

「そうだな」

コバヤシは、自分の携帯で、私とのツーショットを撮って、モリカワさんに送った。これが世にいう「自分撮り」というやつか?客観的に見れば、居酒屋にいるオッサン2人がツーショットを自分撮りしているのだから、かなりキモチワルイ。

ほどなくして、モリカワさんから「ビックリしました」という返信が来た。

「そろそろ出よう」会計を済ませようと、レジに向かうと、レジのところに、談志師匠とお店の人が一緒に写っている写真が飾ってあった。

「談志師匠、いらっしゃったことがあるんですか?」私は驚いて、お店のおかみさんに聞いた。

「ええ。以前、よく来られてました。あと、よく華丸さんもふつうに来られます」

地味な店だが、なかなか侮りがたいではないか。

2軒目にコバヤシが案内したのは、春吉通りから少し路地を入ったところにある、「ホルモン串」の店である。

カウンターだけの狭い店で、メニューは「ホルモン串」しかない。

「どうだい、ディープだろう」

観光客だったら、絶対に入らないようなディープな店である。そりゃあそうだ、お店じたいが、風が吹いたら吹き飛ばされそうな感じなのである。

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そこで、ホルモン串を食べながら、焼酎のお湯わりを飲む。当然、痛風には最悪の料理だが、これがなかなかおつなのである。

「お前と会った仲見世の

煮込みしかないくじら屋で

夢を語ったチューハイの

泡にはじけた約束は

明かりの消えた浅草の

こたつひとつのアパートで」

ここは福岡だが、ビートたけしが歌ったこの「浅草キッド」を思わせるようなホルモン屋である。

「これぞ、B級グルメの極みだ」コバヤシが言った。じつはコバヤシには事前に、「1次会は魚の美味しい居酒屋、2次会はB級グルメの店」と、注文をつけておいた。彼はそのリクエスト通りの店に案内したのである。

ここまでですでにお腹いっぱいになり、3次会は、これまたディープなジャズ喫茶に行って、いろいろと話をする。

相変わらず唐津焼に凝っているようで、いまも月に1回、唐津に通っているのだという。

「趣味というのはなあ」とコバヤシ。「下手に知識を入れてしまってはダメだ。自分の感性を磨く上で、知識はときにじゃまな存在になる」

「知識がなければ理解できないような趣味の世界は、閉鎖的でよくない。ジャズにしても焼き物にしても、知識がなくても入ることができなければ意味がない」

「人間は、ヘタに成長しない方がいい。成長すると、妥協することばかり覚えてしまい、周りに流されてしまう」

酔っぱらって聞いていたので、正確な表現ではないかも知れない。だが、コバヤシの話を聞きながら、ああ、俺は高校時代、こいつの感性に影響を受けたんだなあ、と実感した。そしてオッサンになった今でもそれが変わらないことに、少し安堵した。

「それからなあ」とコバヤシ。「ブログをたまに読んでいるが、相変わらず『どうでもいいこと』と『愚痴』ばっかり書いているな」

「愚痴なんか書いていないよ」私は反論した。「ブログには愚痴を書かないことに決めているんだ」

「何言ってんだ。愚痴と弱音ばっかりじゃないか。お前、愚痴とか弱音を書いて、人の気を引こうとしているんだろ」

「そんなことはないよ」

「だいたい、『軽く死にたい気持ちになる』ってのが、その最たるもんだ」

たしかに、私はこのブログでよく「軽く死にたい気持ちになる」という表現を使っている。

「あのフレーズはけっこう読者に気に入られているんだぞ。今年の流行語大賞にしてもいいくらいだ」

「何くだらないこと言っているんだ」

結局、最後はいつものように私に対するダメ出しで終わった。

「そろそろ帰ろう」時計は11時半をまわっていた。

地下鉄天神駅へ向かって歩きながら、コバヤシが言う。

「不思議だよなあ」

「何が?」

「出会って30年近く経って、福岡で、お前と相変わらずこんなバカな話をするなんて、考えもしなかったよなあ」

「そうだなあ」

午後11時47分。私とコバヤシはそれぞれ反対方向の地下鉄に乗って帰った。

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