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おくさんくにさんおくにさん

12月29日(土)

高校時代の吹奏楽部の1学年下の後輩、モリカワさんの呼びかけで、新宿で忘年会を行うことになった。

午後6時半、やや遅れて、新宿の居酒屋に到着する。

子育てが一段落したモリカワさんは、よっぽどヒマをもてあましているからこういう忘年会を企画したのだろう、と思っていたが、どうもヒマではないらしい。聞いてみると、本業のカウンセリングの仕事や、大学の時間講師などを掛け持ちしていて、忙しい1年だったという。

同期のSとW、1学年下のアサカワオオキ夫妻、三重県からNさん、2学年下のSさんなど、すでに7人が集まっていた。

同期のSは、かの「ミヤモトさんサミット」の議長である。こういう飲み会には欠かせない存在である。Wは、心に残る名曲「ブラックサム」の編曲者である。2人はこのブログでもたびたび登場している

必然的に、「ミヤモトさんサミット」の話になる。

「ミヤモトさんサミット」とは、かいつまんで書くと、次のようになる。

私たちが高2のとき、1学年下にミヤモトさんという、それはそれはかわいい女の子が、入部してきた。

それからというもの、帰り道の喫茶店で連日のように、高2の男子たちによる「ミヤモトさんサミット」が開催された。議長はSである。

ところがミヤモトさんは、1年後、つまり高2のときに、福岡の高校に転校してしまったのであった。

だがその後も、「ミヤモトさんサミット」は続き、会議が盛り上がると、ミヤモトさんの福岡の自宅に電話をかけて声を聞く、という、いまから思えばなんともはた迷惑なことまでしていたのである。

「俺、いまでもその電話番号、覚えているぞ」議長だったSが言った。

「本当かい?だってあれから25年くらい経っているぞ」私は驚いた。

「覚えやすい番号だったんだよ」

「覚えやすい番号?」

「おくさんくにさんおくにさん」

「何だいそれ?」

「ミヤモトさんの電話番号だよ」

人間の記憶力、というのはじつに不思議である。25年も前の電話番号を、「おくさんくにさんおくにさん」という形で覚えていたのだ。

「そういえば、2次会からマイケルが合流するぞ」とS。

マイケルとは、同じ吹奏楽部でトランペットを吹いていた同期の1人である。マイケル・ジャクソンに似ているからという理由で、1学年上の先輩が「マイケル」というあだ名をつけたのだった。実際には、それほど似ているわけではない。

高校時代のマイケルは、私の中のイメージでは、トランペットの道を究める「求道者」である。まじめで、硬派で、少し近寄りがたい雰囲気があった。

「マイケルかあ…。もう20年以上も会ってないなあ」と私。

「マイケルに、聞いてみるかい?」

「聞いてみるって、何を?」

「何をって、福岡に転校したミヤモトさんに会いに行った話をだよ」

硬派でまじめなマイケルが高校時代、転校したミヤモトさんを追って、夜汽車に乗って福岡まで会いに行った、という話が、私たちの間では伝わっていた。だがそれは、なにぶん本人に確かめたわけでなく、なかば都市伝説化していたのである。

「そりゃあ聞いてみたいが、怒られるかもなあ」

「とにかく、タイミングを見はからって聞いてみようよ」

夜8時に1次会がお開きになり、続いて2次会である。同期のマイケルと、2学年下のジローが合流した。

20年ぶりに会うマイケルは、ちっとも変わっていなかった。相変わらず、音楽の話をすると、熱くなる。

「この前さあ、うちの大学のオーケストラのコンサートに行ってきたんだよ。そこで、ブラームスの交響曲1番を演奏していたんだが、あの曲はトランペットがあんまり活躍していないような気がしたんだが…」

私は、先日にこのブログで書いたようなことを、マイケルにぶつけてみた。すると、

「それは違うよ。目立つからいいってもんじゃあない。いかに弦楽器に調和した音を出すかが腕の見せどころなんだ」

「なるほど」

「マイケルは、昔からブラームスが好きだったもんな」と、同期のWが言った。「ブラームスの話になると、夢中になる」

「そういえば、ブラームスの1番では、ホルンはけっこう見せ場があったじゃん」と、こんどはWに言った。Wは、いまでも社会人のオーケストラでホルンを吹いている。

「ブラームスはいい。本当にいい」Wはしみじみと言った。

「そろそろあの話を…」こんどは議長のSが、私に小声で言う。

タイミングを見はからって、マイケルに聞いてみた。

「おくさんくにさんおくにさん、覚えてる?」

「え?」

「おくさんくにさんおくにさん」

「…なんか、覚えているような気が…」マイケルは思い出したようだった。

「じつは聞きたいことがあるのだが」そう切り出して、例の「福岡に会いに行った話」の真相を聞いてみた。

「ああ、あれはねえ。大学1年の時、夏休みに1ヵ月ほど九州を旅行して、その旅行の最後に、ミヤモトさんに会いに行ったんだ。誤解してほしくないのは、ミヤモトさんに会うためだけに九州に行ったのではなくて、あくまでも九州旅行のついでに会いに行った、ということだ」

会いに行った、というのは、どうも事実らしい。

しかし、いくつか疑問が残る。

どうやって、ミヤモトさんと連絡をとったのか?

「電話をした覚えはない。たしか手紙を書いたと思う」とマイケル。

ではいつの時点で手紙を書いたのか?九州に旅立つ前か、それとも、九州を旅行している最中なのか?

もし九州旅行の最中にふと思い立ち、手紙を出したのだとしたら、ミヤモトさんからの返事を受けとる方法がない。もちろん、当時、携帯電話などというものはない。

ということは、九州旅行の前に手紙を書いた可能性が高い。つまりは九州旅行の計画段階で、すでにミヤモトさんに会う予定を組み込んでいたことになる。

「その話、おかしいです」モリカワさんが、突然口をはさんだ。

「どういうこと?」

「私がその話を聞いたのは、私が高2のときですよ」

「どうしてそれがわかるの?」

「高2の夏休みに合宿を長野でやったとき、ミヤモトさんが福岡からわざわざ合宿先まで遊びに来てくれたんです。そのときに、『実はこの前、マイケル先輩が、福岡までわざわざ会いに来てくれたの』とミヤモトさん本人が私たちに話してくれたんです。私たち、それを聞いて、そりゃあビックリしたんですから。本人から聞いたのだから、間違いありません」

「ちょっと待って。話を整理しよう。マイケルの話だと、マイケルが大学1年の夏休み、つまり、ミヤモトさんが高3の夏休みに、九州旅行のついでに会いに行った、ということになる。でもモリカワさんの話だと、ミヤモトさんが高2のとき、つまり、マイケルが高3の時に、ミヤモトさんに会いに行く目的で福岡に行った、ということになる」

マイケルもモリカワさんもそれぞれ、自分の記憶には絶対の自信がある、という。

はたしてどちらの言い分が正しいのか?

人間の記憶、というのは、じつに面白い。

それより何より、この一連のやりとりじたいが、ミヤモトさんについて延々と語る「ミヤモトさんサミット」そのものではないか!

かくして、約20年ぶりに、「ミヤモトさんサミット」が開催されたのであった!恐るべし、ミヤモトさん!

気がつくと夜11時。2次会はお開きとなった。

「おくさんくにさんおくにさん」

帰り道、この言葉だけが妙に、頭の片隅に残った。

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