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ソウル・イントロからザ・チキン

12月18日(火)

たまたま職場の掲示板で、本日夕方にジャズ研のライブが構内の建物で行われるというポスターを見かけたので、聴きに行くことにした。

本当はそんなことをしている時間はないのだが。

例によって知っている学生は1人もいないのだが、先日、映画「青春デンデケデケデケ」を見返したばかりだったので、学生のジャズバンドに、強く惹かれたのである。

ライブ会場はこぢんまりしていて、演奏も微笑ましい感じがするものばかりだったが、とつぜん「ザ・チキン」の演奏がはじまったときは、なつかしくて思わず涙が出てしまった。

思い出すなあ。「ソウル・イントロからザ・チキン」。

もともと「ザ・チキン」というジャズの曲に、伝説のベーシスト、ジャコ・パストリアスが「ソウル・イントロ」というイントロ部分をつけたのが、「ソウルイントロからザ・チキン」である。だから私にとっては、本来の「ザ・チキン」ではなく、ジャコ・パストリアスがアレンジした「ソウル・イントロからザ・チキン」として、体に染みついているのである。

この曲を初めて聴いたのは、高2の時である。吹奏楽部で一緒だった親友のコバヤシが、ラジオか何かで放送したジャコ・パストリアスのライブをカセットテープに録音したものを、聴かせてくれたのである。

「どうだい、めちゃめちゃカッコイイだろう?」

「カッコイイねえ」たしかに、身震いするくらいカッコイイ曲である。

このあと、コバヤシが驚くべき提案をする。

「この曲を、こんどの4月の定期演奏会でやりたい」

「え?これを?でも、楽譜がないだろう?」

「俺が編曲する!」

これは、無茶な提案であった。

まず、ひとつめの問題点は、この曲はそもそもビッグバンドの曲なので、吹奏楽用にアレンジする必要があるということである。しかも音源となるのは、ラジオで放送されたライブをカセットテープに録音したものだけで、今と違って、音質はめちゃめちゃ悪かった。そうとう耳のいい人でなければ、編曲はかなりむずかしい。

第二の問題点は、コバヤシには編曲の経験がまったくなかったということである。

そして第三の問題点は、仮に編曲して楽譜ができたとしても、定期演奏会の1曲として選ばれるかどうか分からない、ということであった。

うちの吹奏楽部には、「選曲委員会」というのがあって、ここで定期演奏会の曲目が決定される。選ばれるかどうかは、選曲委員のメンバーしだいなのである。

だが幸いなことに、私は、選曲委員の1人だった。

私はコバヤシに言った。

「こんどの選曲委員会で、このカセットテープをみんなに聴かせて、この曲を推薦するよ。その代わり、『ソウル・イントロ』のソロの部分を、俺に吹かせてくれ」

「ソウル・イントロ」のサックスのソロは、めちゃめちゃカッコイイので、ぜひ吹きたいと思っていたのだ。

「わかった」コバヤシが言った。「イントロ部分のソロはおまえに譲る。その代わり、絶対にこの曲を推してくれよ」

「わかった」

私は選曲委員会でこのテープを聴かせ、編曲はコバヤシがすべて担当するので問題ない、だからこの曲をぜひ演奏会の1曲に加えてほしい、と説得した。

今でいう、プレゼンですな。

たぶん、私があまりにも熱っぽく語ったのだろう。「ハイハイわかった」という感じで、定期演奏会の1曲に選ばれた。

まさか実現しない、と思っていた「ソウル・イントロからザ・チキン」が、定期演奏会で披露できるとは!

コバヤシも、「ちからわざ」で編曲を仕上げたのであった。

いまとなっては、あのむずかしい曲をどうやって演奏したのか、まったく覚えていない。だが演奏のレベルなど、この際どうでもよい。実現したこと自体が、私とコバヤシにとっては重要だったのだ。

いまから思えば、「その気になれば、たいていの夢は実現する」という思いは、この体験がルーツだったように思う。

それから20年以上たって、「ソウル・イントロからザ・チキン」のことを思い出し、あの時、コバヤシが編曲する際に参考にしたライブ音源を、もう一度聴きたい、と思うようになった。

なにしろ、ラジオで放送されたライブをカセットテープに録音したものだったから、それがいつのライブなのかも分からない。コバヤシからテープを借りてダビング録音したカセットテープも、いまやどこかに行ってしまった。

ジャコ・パストリアスの「ソウル・イントロからザ・チキン」は、ライブ音源がいくつかソフト化されている。私はそれらを見つけては、その曲が入ったCDを買ったり、iTuneストアで買ったりしたのだが、どれも、あの時の音源とは異なる。テナーサックスのソロが、まるで違うのである。

私がカッコイイと思ったのは、高2の時に初めて聞いた、あの音源なのである。だからほかのライブ音源を聴いても、なんだかしっくり来ないのだ。

(もう、あの音源はないのかなあ…)

あきらめていたのだが、さきほどインターネットで検索したところ、動画サイトで見つけることができた!

これだこれ!

「オーレックス・ジャズ・フェスティヴァル'82 イン・ジャパン」で、ジャコ・パストリアス・ビッグ・バンドが演奏したものだということが判明した。このライブは、当時、テレビで放映されたようである。コバヤシは、このときに放送されたテレビかラジオの音源を、カセットテープに録音したのだろう。

25年ぶりに聴く、「ソウル・イントロからザ・チキン」。

やはりめちゃめちゃカッコイイ!たぶん私が今まで聞いた数多くの曲の中でいちばんカッコイイ曲だ!

あの時、この曲をやろう、と言ったコバヤシの提案は、間違っていなかったのだ。

そして、25年たったいま、若者たちがこの「ザ・チキン」をかっこよく演奏しているのを見ると、なんだかとても感慨深い。

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コメント

Takasago Live Fes :Soul Intro〜The Chicken

http://www.youtube.com/watch?v=TIROEi8N158

投稿: こぶぎ | 2012年12月22日 (土) 15時51分

いいですねえ~

投稿: onigawaragonzou | 2012年12月23日 (日) 01時30分

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