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IT弱者の憂鬱

1月17日(木)

ここのところの寒さで、どうやら風邪をひいたらしい。

身体がだるいのだが、引っ越しの作業は少しでも進めなければならない。学生に手伝ってもらって、1時間半ほどばかり寒い部屋で引っ越し作業を進めたせいか、ますます具合が悪くなってしまった。

夕方、所用があってある部局に行くと、お客さんが来ている様子である。

「出直しましょうか?」

「いえ先生、ちょうどよかった。先生も一緒に聞いてください」

「何です?」

「プレゼンです」

東京からIT関係の大企業の社員が、3人もやってきて、パソコンを使ってプレゼンをする、というのだ。見ると、服装といい、雰囲気といい、いかにもIT企業の社員、といった感じである。ただ、もっぱらプレゼンをしているのは1人だけで、あとの2人は、どんな役割の人なのかはわからない。

「続けてください」と職員さん。

「はい、当社といたしましては、これをメインのコンテンツとしてアピールすれば、ユーザーのニーズに応えることができると思っております」

…のっけから、何を言っているのか、まったくわからない。

「ランニングコストは、どのくらいなのですか?」(職員さん)

「一度このコンテンツを立ち上げてしまえば、あとはブラウザのバージョンアップにともなってシステムを若干チェンジする程度です」(IT社員)

「………?」(私)

「たとえばですね。これをクラウドにアップするというのはどうでしょうか?」(職員さん)

「クラウドにアップすることも考えたのですが、ランニングコストがかかるのです。こちらのサーバーがしっかりしているので、パッケージとして買い取っていただくのがよろしいかと」(IT社員)

…ますます何だかわからない。

「仮想メモリによるコンテンツのバージョンアップも考えてみたのですが、それをやるとなるとなかなかコンテンツがユーザーのニーズの問題で…」(IT社員)

…もはや、ちゃんと聞きとれない。

「そうですか。それでは、その方向でお願いします。マックスでお願いしますよ」(職員さん)

「わかりました。ではその方向で見積もり書を作ってみます」(IT社員)

「その方向」って、どの方向なんだ?

ひととおりプレゼンが終わり、職員さんが、IT社員に私を紹介した。

「こちら、○○先生です。○○がご専門です」

「それはそれはどうも、私、こういう者でございます」

そういって、IT社員の3人と名刺交換をする。まるで、サラリーマンコントのような名刺交換である。

手持ちの名刺があっという間になくなってしまった。

それにしても、どこのウマの骨だかわからない、IT弱者の私と名刺交換したところで、何のメリットもないのになあ。

ところで、残りのお二人は、どんな役割だったんだ?

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コメント

「はい、当社といたしましては、これを今春刊行いたします第二巻の目玉の論文としてアピールすれば、読者の要求に応えることができると思っております」

「ランニングで例えると執筆の大変さは、どのくらいなのですか?」

「一度この文章を書き上げてしまえば、あとは印刷所の校正にともなって構成を若干手直しする程度です」

「たとえばですね。この話自体を「雲の上に上げる」、つまり棚上げしてしまうというのはどうでしょうか?」

「棚上げすることも考えたのですが、ランニングする(逃げる)と違約金がかかるのです。こちらの鯖がしっかりしているので、違約金の手付け代わりに買い取っていただくのがよろしいかと」

「仮そめの記憶による論文の再構成も考えてみたのですが、それをやるとなるとなかなか文章が読者の要求水準の問題で…」

投稿: ITこぶぎ | 2013年1月17日 (木) 23時36分

「…玄白どの、このように翻訳にしてみましたが、いかがですかな?」

「おお、すばらしい!良択どの。これで日本のIT技術は飛躍的に進歩するであろう」

かくして、辞書もない江戸時代に、暗号解読的な方法により、3年半の歳月をかけて「IT新書」の翻訳が完成したのでありました。

投稿: onigawaragonzou | 2013年1月18日 (金) 00時16分

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