新作落語「IT長屋」
昨日の日記に、さっそくこぶぎさんがファンタジーなコメントを書いてくれた、ということは、そこそこ記事の反応がよかった、ということだろうか。
こぶぎさんのフリのコメントに対して、『解体新書』で落としてみたのだが、どうも今ひとつである。
で、よく考えてみたところ、これは落語ではないか、と。
会社でIT企業の社員のプレゼンを聞いた八っつぁん。ところがIT弱者の八っつぁんは、IT社員が言っている言葉が、サッパリわからない。困った八っつぁんは、長屋のご隠居に相談に行くことにした。
「ご隠居!ご隠居!いらっしゃいますか?」
「おお、誰かと思えば八っつぁんじゃないか。どうしたんだい?」
「実は困ったことがありまして。長屋のご隠居なら、物知りだとうかがったもので」
「何でも聞いてみなさい」
「ええ、それが、ITのことなんで」
「IT?」
「ええ」
「ああ、イットのことだな」
「イット?イットって言うんですか?…まあ何でもいいや。今日、会社で、そのイットとかいう会社の社員が来ましてね、いろいろと説明するんですが、言ってることがサッパリわからないんでさあ」
「どんなことだい?」
「メインのコンテンツが何たらとか。メインのコンテンツって、何です?」
「メインは『主要な』、コンテンツは『記事』。つまり、主要な記事のことだな。その会社は新聞社に違いない」
「はあ、そうですか。…それに、ランニングコストって、何です?」
「ランニングのコスト、つまり、走るのに必要な費用だよ」
「ランニングに必要な運動靴とか、Tシャツのことですかい?」
「そうだ」
「するってえと、連中の商売はスポーツ用品店かな?」
「そうとも言える」
「じゃあ、『クラウドにアップする』は?」
「『雲の上に上げる』、つまり、『棚上げにする』、という意味だな」
「へえ、ご隠居は何でも知っていらっしゃる。じゃあ、サーバーって何です?」
「サーバーは、鯖のことだよ」
「鯖?魚の鯖ですか?」
「そうだ」
「じゃあ、サーバーがしっかりしている、というのは?」
「鯖の脂がのっている、という意味だ」
「するってえと、あの連中は魚屋さんですか?」
…と、こんな珍問答が延々と続く。知ったかぶりのご隠居の話を素直に聞き入れる八っつぁん。
翌日、八っつぁんが会社に行き、昨日のIT社員に、ご隠居さんから聞いた知識をひけらかすが、どうも言っていることがちんぷんかんぷん。IT社員も呆れてしまった。
自分の言っていることが全然伝わらないことに気づいた八っつぁんが、IT社員に言う。
「やい!これだけ言ってわからなかったら、この契約、クラウドにアップするぞ!」
おあとがよろしいようで。
以上、新作落語「IT長屋」のあらましでございました。
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コメント
昨日は済まなかったな。やっぱり、クラウドにアップはよくねえや。今日はたっぷり話を聞かせてもらうよ。
弊社の提案を受け入れて頂き、ありがとうございます。さて、先日申しましたように、クラウドを使うより、内部サーバを使えば、ランニングコストが掛かりません。まあ、分かりやすく言えば、大きなナスを学内ランの中に配置するようなものですから。一応こちらのプロクシにはアパッチが入っているので守りは堅いようですが、ただ、トロイの木馬を仕込まれると大変ですから、いずれにせよセキュリティには十分気をつけないといけません。まあ、ITの成長に伴って、いろいろ問題も生じてきますから。
ご隠居ー(泣)
おいおい、なんか寝不足そうな面下げて、駆け込んできたねえ。
昨日の夜中、吹雪で車がスタックしてもう死にそうで... って、そんなことじゃないんですよ。この前ご隠居に教えて貰ったように、魚屋の御用聞きに言ってやったらね、後ろに控えている金縁メガネの若い奴が、もっと訳のわからねえことを言ってきやがるんだ。
おやおや、そんなことも知らねえで、よく21世紀を生き延びて来たねえ。まず、「クラウドを使うより、内部サーバを使えば、ランニングコストが掛からない」というのは、棚上げするより、内部で鯖を使えば、足が速くても高くつかない、ということだ。つまり、鯖の売れ行きが悪くても棚上げしとかねえで、内部の食堂で使ってもらえば、鯖の足が速くても損はしない。まあ、商いの道理だな。
へー。そんなこと言ってやがったんですか。じゃあね、「大きなナスを学内ランの中に配置するようなもの」というのは何ですか?
それは読んで字の通りだな。大きなナスを、学内にある蘭の咲いている花壇に植えろということだ。魚だけだと足が速くて損をするから、八百屋も始めよということだな。
つまり「経営の多角化」を説いてるわけですね。松下幸之助みてえな奴だな。じゃ、次は?
これは商売の道理を戦に例えているんじゃよ。少し長くなる話から、よく聞きなさい。
さて時は西部開拓時代、アメリカにプロクシという名前の男がいてな。この男は白人で、もともと軍人だったわけだが、インディアンの酋長の娘を助けたことから縁あって、インディアンの砦に住むようになった。そこを守っていたのが勇猛果敢なアパッチ族だ。
なんだか映画「ダンス・ウィズ・ウルブス」に似た話ですが。
まぜっかえさねえで、最後まで聞きなさい。敵(かたき)同士だった白人とインディアンが、こうやって仲むつましく暮す日々が続いていた訳だが、戦雲急を告げ、騎兵隊の一団がとうとうこの砦まで迫ってきた。
こりゃ大変だ。
ところが、さすがはアパッチ族。なかなか騎兵隊を砦に寄せ付けない。そこで一計を案じたのが騎兵隊長のトロイだ。インディアンは馬を贈る風習があるのに目をつけて、和睦の証と偽って、中に兵隊が入った馬の模型を差し出した。
ほう、全く了見のねえ奴だな。
アパッチ族は騙されたとも知らずに、馬の模型を砦に引き込む。すると、中から躍り出てきたのが決死隊長のセキュリティというわけだ。不意を突かれたアパッチ族は敗走し、酋長の娘が騎兵隊の手に掛かろうとしたその時、一人残ったプロクシの奮闘で助けられ、娘と砦は辛くも守られたという話だ。つまるところ、商売の道は生き馬の目を抜くような世界だから、油断するなという戒めじゃな。
さすがご隠居。何でも知ってますね。でもね、最後まで分からないのはITです。イットって読むんでしたっけ。
ああ、イットかい。イットは酋長の娘の名前だ。
投稿: ITこぶぎ | 2013年1月19日 (土) 22時38分
ダメだ、頭がクラクラしてきた(笑)。それにしても、一昨日の出来事がきっかけで、こんな落語ができるなんてねえ。ぜひこの「IT長屋」を練り上げて、志の輔師匠あたりに演ってもらいたいなあ。…でも、これがウケる客層はどのあたりなんだ?やはりイット関係者か?
投稿: onigawaragonzou | 2013年1月19日 (土) 23時28分