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上が下で、下が上

2月8日(金)~10日(日)

中国地方の中核都市にある新幹線の停車駅から、在来線に乗り換ること30分。Kという町に到着した。これから3日間、「眼福の先生」ことT先生と、資料調査である。

このブログで何度も書いているように、T先生の情熱あふれるマニアックな研究に憧れ、昨年、私と妻は先生に「入門」した。

齢八十に近づく先生は、現役を引退されてから10年近くが経つが、各地に残るある「資料」を求めて、いまでも全国を行脚しておられる。今回、T先生と私と妻を含めた総勢5名で、その資料を調査することになったのである。

Kという町は、実にのどかな田舎町である。この小さな町の図書館に、先生が長年探し求めていたものが発見されたのは、昨年のことである。発見したのは、私の妻である。

この「もの」をめぐっては、戦前から戦後にかけて実に壮大なドラマがあった。そして長らく所在不明のまま60年ほどが過ぎ、いろいろな偶然が重なって、昨年、妻がこの「もの」を発見することになったのも、言ってみればそのドラマの続きである。

ふつうの人にとっては、何の変哲もないものかも知れない。だが、その背後にあるドラマは、私の心を突き動かしてやまない。こういうことがあるから私は、今の仕事をやめることができないのだ。

何より、T先生がその探し求めていた「もの」を目の前にして感激している姿は、私に元気を与えてくれる。

「自分の親に会ったような気分です」

その「もの」を目の前にして、T先生はそうおっしゃった。

さて、調査開始である。

この調査がまた、マニアックで、奇妙なのだ。

たぶん、まわりから見たら、「いったいこの人たちは何をしているのか?」と、サッパリわからないだろう。

先生と私とで交わしている会話は、以下のようなものである。

先生「この部分はどうなっていますか?」

私「上が下で、下が上です」

先生「なるほど。ということは、上から下、ということですね。では縦はどうですか?」

私「左が上で、右が下です」

先生「なるほど。それも定石通りですね。右から左、ということか…次はどうですか?」

私「…こちらの方は上が上で、下が下のようです」

先生「上が上で、下が下…本当ですか?」

私「どうも自信がありません。ひょっとしたら裏テープの可能性も…」

先生「なるほど。その可能性もありますね」

会話だけ聞いていても、ナンダカワカラナイ。

こんな会話が、延々と続く。

2日目、地元のケーブルテレビが、取材に来た。

(こんなマニアックな調査風景を放送しても、誰もわからないのではないだろうか…)

私は心配したが、こっちが取材に来てくれと言ったわけではないのだから、知ったこっちゃない。

最後にディレクターは、T先生にインタビューをした。

先生は滔々と、この「もの」にまつわるこれまでのドラマをお話になった。その語り口は平明で、情熱的であった。

ディレクターにはどの程度内容が伝わったのかはわからないが、私は横で聞いていて、あらためてこの資料の持つドラマティックな運命に思いを馳せた。

そんなこんなで、3日間の、気の遠くなるようなマニアックな調査が終了した。

時間切れで、調査じたいをすべて終えることができなかった。またこの町を訪れる機会はあるだろうか。

来週末もまた、T先生と九州へ調査旅行である。

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