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別れを言えなかった別れ

3月11日(月)

Honposter 映画「ライフ・オブ・パイ」をひと言でいえば、「少年が虎と漂流する物語」である。

漂流譚であり、少年の成長譚でもある。

少年時代の出来事を、大人になった主人公が回想する、という話は、たとえば、「ニュー・シネマ・パラダイス」を思い起こすがよい。

あの映画では、少年「トト」の演技の巧みさに話題が集中したが、大人になった主人公「トト」を演じた役者も、きっちりと演じていた。だからこそ、名作になったのである。

20130128141647b4c 同じようにこの映画でも、主役は「虎と漂流した少年」であるが、少年時代の出来事を回想する大人のパイを演じた役者(イルファン・カーン)もすばらしい。

この役者、どこかで見たことがあると思ったら、「スラムドッグ$ミリオネア」に警察官役で出演していたんだね。印象に残る役者である。

この映画は、主人公の回想により物語が進んでいくが、実は主人公が語った内容の、何が真実なのかは、よくわからない。それこそが、この映画の最大の仕掛けである。

しかし、たった一つだけ、真実があるように思う。

それは、「別れを言えないまま「永遠の別れ」を迎えてしまったことへの悲しみ」である。

こんな場面がある。

長い漂流の末、少年「パイ」と虎「リチャード・パーカー」は、陸地に漂着する。

船から降りたリチャード・パーカーは、ジャングルを見つけると、パイの方をふり返ることなく、ジャングルの中に去ってゆく。

長い漂流の間に、リチャード・パーカーと心を通わせたと思い込んでいたパイは、実はそうではなかったことに気づき、愕然とするのである。

それまで淡々と語ってきたパイは、このときだけ、感極まって、声を詰まらせてしまう。

考えてみれば、主人公パイは、愛する恋人に「さよなら」を言うことなくインドを発ち、家族たちを突然の海難事故で失い、心を通わせたと思い込んでいた虎からも、何も言わずに去っていかれたのである。

パイが実際に経験した出来事がどのようなものであったにせよ、ちゃんとした別れを言えないまま「永遠の別れ」を迎えてしまったことへの悲しみだけは、彼にとっての揺るぎない真実だったのではないだろうか。

2年前の今日のことを思い返しながら、そんなことを思った。

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