老住職の毒舌
3月2日(土)
28日の夜遅くに勤務地にもどり、翌1日の朝9時半から絶対に休めない仕事がある。
というのも、その作業ができるのが、私しかいないためである。 それも、かなり細かい作業なので、少し頭が痛くなった。
1時間半ほどの作業が終わり、仕事部屋に戻ってからメールを確認すると、仕事の依頼主から、
「てめえ、ふざけんじゃねえ!早く原稿をよこせって言ってんだろ!」
的なメールが来た。もっとも、そんな書き方はしていないのだが。
私はすぐさま、「すみません。今日明日中に何とかします」と返事を書いた。
といっても、その仕事にはまったく手をつけていない。日曜日(3日)には、新幹線を乗り継いで3時間以上もかかる隣県で、講演をしなければならない。そのためには、前日、すなわち土曜日(2日)の午後6時の新幹線に乗って前乗りしなければ、当日の講演会には間に合わないのである。 そうやって逆算していくと、私に残された時間は、3月1日の午後から翌2日の夕方までである。
仕方がない。残された時間で仕上げるしかない。
さて午後2時すぎ、所用があってある部局に行くと、1人のおじいさんがお客さんとしてきていた。 何でもそのおじいさんは、地元でも有名な老住職だそうである。
横に座ったとたん、その老住職は堰を切ったように私に話しはじめた。 しかも、その話のほとんどが、世の中をバッタバッタと斬りまくるような、毒舌である。
(住職さんなのに、こんなに毒舌を吐いていいのか?)
話を止めるわけにはいかない。止めようとすれば、攻撃の矛先はこちらに向かってしまう。
仕方がないので、うなずきながら聞いているうちに、次第に、気分が悪くなった。 ひどく寒気がして、お腹がゴロゴロと鳴りだしたのである。
(これは、やばいな…)
しかし、途中で失礼するわけにもいかない。 結局、2時間近く、その老住職のお話をうかがうことになった。どうしてこう、おじいちゃんにばかり好かれるのだろう?
老住職がお帰りになり、ふと時計を見ると、午後4時過ぎである。
「先生大丈夫ですか?顔が土気色になっていますよ」 一緒に老住職の話を辛抱強く聞いていた職員のSさんが私の顔を見て言った。
「大丈夫ではないようです。これで失礼します」
ひどい寒気がして、慌ててトイレに駆け込んだ。
久しぶりの、ビックリするくらいの下痢である。
原因は何だろう?
先ほどの老住職の毒気にあてられたのだろうか?
それとも前日までの出張の疲れが出たのか?はたまた、そこで食べた瀬戸内の美味しい魚介類にあたったのか?
とりあえず事務室に駆け込み、風邪薬をもらった。
(困ったなあ。日曜日の講演会は絶対に休めないし…。その前に絶対に仕上げなければならない仕事もあるというのに…)
しかしこんなに体調が悪ければ、仕事ができるはずもない。仕方がないので、家に帰って休むことにした。
翌日(2日)のお昼ごろ、布団から這い出るようにして起き出し、仕事部屋に向かう。寒気と下痢は、相変わらず治らない。
(残された時間は、4時間くらいか…)
仕事部屋に到着して、何とはなしにガムを食べると、ガチッと何かがあたる音がした。
ガムを噛んでいるうちに、歯の詰め物がガムにひっついて、取れてしまったのである!
(何だよこんなときに!困ったなあ…)
「弱り目に祟り目」とは、このことである。
いまから歯医者に行って詰め直してもらうか?いやいや、とてもそんな時間はない。
といって、このまま放っておいても、これから1週間以上は、予定がギッシリ詰まっているのだ。
こうなったら、自分で詰め物を歯に詰め直すしかない。
(うんがあぁぁぁぁぁ)
口を大きく開けて、詰め物を歯に詰め戻そうとするが、詰め物が小さいこともあって、なかなかうまくジョイントしない。 何度詰めても、詰め物がヘンなふうに歯の間に挟まってしまい、噛み合わせが悪くなってしまうのだ。
その上、
(うんがあぁぁぁぁぁ)
と口を開けているうちに、アゴがはずれそうになった。
(これ以上口を開けっぱなしにしていると、アゴがはずれて、もっと取り返しの付かないことになってしまう。もはやこれまでか…)
とあきらめたその瞬間、
スルッ!
あれ???飲み込んでしまったか???
……? ……!
いやいや、見事、詰め物が歯にジョイントしたぞ!
20分ほどの格闘の末、ようやく詰め物は、元通り歯に戻ったのであった。
そうこうしているうちに、残された時間は、あとわずか。
はたして原稿は送ることができるのか?
そして、隣県での講演会は、無事に終わるのか?
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