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新作落語「断捨離長屋」

3月5日〈火〉

毎日、本当にいろいろなことが起こる。

このブログをこまめにチェックしていただいている人は覚えていると思うのだが、昨年、職場の建物の耐震工事のため、仕事部屋が仮の仕事部屋に移転し、今年になって耐震工事が完了したので、また元の仕事部屋に戻ることになった。

しかし私の場合、本だの書類だのがあまりにも多かったため、業者による移転作業が終わった後も、まだ若干の書類や本が、仮の仕事部屋に残っていた。

暇を見つけては、それらを元の仕事部屋に移したりしていたのだが、最近は忙しくて、仮の仕事部屋にいく時間がなく、そこには、雑多な書類がまだ相当残っていた。まだ「引き払え」とも言われていなかったし。

さて、今日。

午後の会議が終わり、久しぶりに仮の仕事部屋から荷物を運んでくるか、と思って行ってみると、そこに驚くべき光景が広がっていた。

もぬけの殻である!

私が残していた、雑多な書類の一切が、消えてなくなってしまっているのだ!

いったいどういうことだ?

慌てて担当の職員に聞いてみると、

「ああ、最近床をワックスがけしましたからね」

という。

いやいやいや。それは関係ないだろ!

まだ引き渡していないのにもかかわらず、勝手に鍵を開けて床にワックスをかける。

その時点でかなり気分が悪い。

しかしそれ以上に、その部屋にあった重要な書類一切を、処分してしまったというのは、どういう了見か?

いろいろな職員さんに聞いてみるが、得意の

「知らぬ存ぜぬ」

の一点張りである。

思い出しても見たまえ。

私は中学か高校の時、自分のお気に入りだった楳図かずお先生の漫画すべてを、同居していた祖母に、断りもなく捨てられたことがある。

それからというもの、私と祖母の関係は最悪になったが、そのとき以来の衝撃的な出来事である!

そりゃあ確かに、まるでゴミくずのように、テーブルの上に書類が置いてあったから、10人8人くらいの人は、その様子を見たら「ゴミ」だと思うだろう。

しかし、何にせよ、何の断りもなく捨ててしまうというのは、全く理解できない。これは嫌がらせなのか?

職場のためにこんなに一生懸命働いているオイラが、何でこんな目に遭わなきゃならないんだ?こんな理不尽なことってあるか?

すっかり心が折れてしまった。今度ばかりは、本当である。

「いつ壊れてもおかしくありませんよ。それが明日かもしれません」

という、一昨日に同世代の研究仲間のAさんのが言った通りになった。

あまりにやり場のない怒りを覚えたので、何人かの人に、この仕打ちのことを言うと、

「それはひどいですねえ」

と言ってくださるが、どことなく、

「でもおまえ、ゴミに間違われるくらい、散らかしていたんだろ」

「早く持って行かないお前が悪い」

と、心のどこかで他人事のように思われているような気がして、例によってまた被害妄想が広がった。

うーむ。しばらくは立ち直れない。

このまま韓国出張というのは、何とも耐えがたい。

そうか!

こういうときは、この酷い出来事を、落語にしてしまえばいいんじゃないか?

題して「断捨離長屋」

八っつぁんが仕事から帰ると、長屋の自分の部屋がもぬけの殻である。

大家さん!

おお、どうした、八っつぁん

オレんとこの荷物、どうしやした?

どうしたって、どうしもしないよ。

もぬけの殻じゃねえですか

知らねえよオレは。…そう言えば、さっき屑屋が来て、なんかいろいろ持ってったぞ。昨晩らくだが死んだだろ。それで、らくだの部屋のものを持ってくんだとか言ってた。

あの屑屋、間違ってオレんとこのもの持って行きやがったな。

屑屋のところに行く八っつぁん。

やい!屑屋

へえ、毎度。

毎度じゃねえや。おいお前、オレんとこの荷物、全部持って行きやがったな。

違いますよ旦那。あっしは死んだらくださんの荷物を持っていったんでさあ。

馬鹿野郎。らくだの荷物はそっくりそのまま残ってるじゃねえか。おい、本当のことを言えよ1

実は旦那。らくださんのご友人とやらが、えらく怖い方でやんしてね。何にも持ってくもんがねえなら、隣の八っつぁんのところのを持ってったらいいじゃねえか、持ってかねえと、らくだの死体を担がせてカンカンノウを踊らせるぞ、と、こう凄まれましてね。

それで持ってったのか。

へえ。…それと

それと?

大家さんも。

大家さんも?大家さんがどうした?

最近は「断捨離」がブームで、うちの長屋にもなかばゴミ屋敷みたいなやつがいるから、これを機会に持ってってやれと。

ゴミ屋敷みたいなやつってオレのことか?

へえ。どうもそのようで。

どいつもこいつもオレをコケにしやがって。

再び大家さんのところに行く八っつぁん。

酷いじゃねえか。勝手にオレの部屋に上がり込んで、いっさいがっさい屑屋に持って行かせるなんて!

八っつぁん、俺はお前のためを思って屑屋に持って行かせたんだぞ。大家といえば親も同然、店子といえば子も同然と、昔から言うだろう。いわば親心だ。

それとこれとは話が違うやい。いくら親同然でも、勝手に人の部屋に上がり込んで捨てるなんて、人間のやることじゃねえ!けえしてくれ!オイラの荷物、すべてけえしてくれよ!

それはできないな。屑屋が全部持って行ってしまった。

だったら屑屋から取り返してくれよ。

それもできない。

どうして?

あれはらくだの荷物だと言って持って行ったんだ。今ごろはエジプトあたりをさまよっているだろうよ。

…うまくオチたかな?「らくだ」という落語を知っていないとわからないかも。

ということで、しばらく韓国で今後の人生について考えることにします。

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コメント

白紙は白紙、カラスはカラス、線香紙は線香紙、陳皮は陳皮~

おやおや、また寅さんのDVDが出てきたね。これで24枚目だよ。一体、この人は職場で仕事する気があるのかねえ。

白紙は白紙、カラスはカラス、線香紙は線香紙、陳皮は陳皮~

おや、また出てきたよ。なんか高価そうな本だねえ(パラパラ)。

なんだい、外の冷気に触れたら文字が浮き出てきた。さては「消えるボールペン」で書いたな(パラパラ)。こりゃ落書きばかりで売り物になんねえから、さっさと捨てちまおう。

白紙は白紙、カラスはカラス、線香紙は線香紙、陳皮は陳皮~」

なんでも入っているねえ、この屑には。今度は恋文だよ。なになに、「僕と一緒に夜明けのトルメンを見ませんか」って、よくこんな文面で、奥さんをかどわかせたねえ。まあ、せっかくだから、通りを歩いている学生諸君に向かって、義太夫調で全文朗読してやろう。

白紙は白紙、カラスはカラス...

投稿: こぶぎ | 2013年3月 6日 (水) 02時35分

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