卒業旅行に合流する
3月6日(水)~9日〈土〉
ソウルの町は、歩いていて飽きない。
今回泊まったところは、「忠武路4街」の近くのホテルなのだが、このホテルの周りには、ビックリするくらいの数の「椅子屋」さんが並んでいる。さながら「椅子屋街」である。
前回、ソウルで泊まったときのホテルは、「トロフィー屋」が並んでいる「トロフィー屋街」の中にあった。トロフィーしか売っていない店が、数十軒と軒を連ねているのだ。
一つの町に、ある特定の商品を売る店ばかりが並んでいる、というのは、ソウルではふつうの光景なのだ。 「椅子屋街」を歩いていると、どれが売り物の椅子で、どれがお店の主人が座る椅子なのかも、わからない。
椅子と一緒に、テーブルがほしい場合はどうするのだろう?というか、ふつうは、机と椅子をセットで買う場合がほとんどなのではないだろうか? おそらくソウルのどこかに、おびただしい数の「テーブル屋」さんが軒を連ねている「テーブル屋街」があるに違いない。
「あのう、椅子と一緒にテーブルがほしいんですけど」
「うちは椅子しか扱ってないからねえ。テーブルがほしいなら、テーブル屋街に行きなさいよ」
みたいな会話が、客と店員の間で日常的に交わされているに違いない。
さて、私の指導学生である4年生のCさんとN君の二人が、3月8日から11日にかけて、卒業旅行でソウルに行く、と聞いたのは、かなり直前になってからのことである。
一番の目的は、昨年の9月から1年間の予定で韓国の地方都市に留学している、やはり私の指導学生のOさんに会いに行くことであるという。3人は同級生なのだ。
「もし予定が合えば、先生もご一緒できませんか」という。 相変わらず無計画な連中だなあ、と苦笑しながらも、たまたま私もこの期間、所用でソウルにいるのだから、彼らの「引きの強さ」というのもまた、相変わらずである。生きていくのに必要なのは、「引きの強さ」だな、と、彼らを見ているとそう思う。
Oさんは、8日(金)の午後に大学の授業が終わるから、そこから長距離バスに乗ってソウルに着くのが午後7時。その頃に江南(カンナム)に待ち合わせて、一緒に夕食を食べようということになった。
Oさんは江南(カンナム)のオサレなサムギョプサル屋(焼き肉屋)さんをあらかじめ調べていて、そこに行くことになった。
ところで、彼らはソウル滞在中、どのあたりを観光するのだろう?
私がソウル初心者を案内するときの「テッパンコース」というものがある。
まず、1日目は、午前中に景福宮を見て、お昼に景福宮の近くの土俗村(トソクチョン)でサムゲタンを食べて、午後は仁寺洞(インサドン)を歩き、時間があれば、世界遺産の宗廟とか昌徳宮とかに行く。で、夜は明洞(ミョンドン)。
2日目は、ソウル郊外の水原(スウォン)という町に行って、これまた世界遺産の華城(ファソン)を歩き、お昼にはスウォン名物の「カルビ焼き肉」をたらふく食べる、というコース。
「どうだろうね」同行した妻に聞くと、
「あんまり口出すもんじゃないよ。彼らに考えさせればいいんだよ」という。
そりゃそうだ。留学中のOさんにしても、会いに来てくれる2人の友人のためにしっかりと計画を立てているに違いないのだ。
午後7時過ぎ、日本から来たCさんとN君、そして地方都市のK市から長距離バスで駆けつけたOさんと、紆余曲折ありながらも会うことができ、何とかカンナムの焼き肉屋で夕食にありつけたのであった。
焼き肉を食べながら、旅行の予定を聞いてみたところ、3人ともどうもあまり考えていないらしい。Oさんに至っては、「2人の行きたいところを聞いて、それに合わせます」という。やはり予想は的中した。
そういうのを見ると、つい、口を出したくなる。
「じゃあ、明日は午前中に景福宮を見て、お昼に土俗村(トソクチョン)でサムゲタンを食べて、午後は仁寺洞(インサドン)をぶらぶら歩きなさい。そのあと、世界遺産の宗廟とか昌徳宮を見たらいい。お昼くらいまでは私たちもつきあえるから」
「2日目は、ソウル郊外の水原(スウォン)に行って、これまた世界遺産の華城(ファソン)を見ること。お昼は当然、水原名物のカルビ焼き肉だぞ」
「最終日は、宿所の最寄りの駅から空港行きのリムジンバスが出ているはずだから、あらかじめリムジンバスの停留所の位置を確認しておくこと。朝5時くらいのバスに乗れば、飛行機のチェックインに間に合う」
相変わらず口うるさい教員である。
これでは、せっかく学生たち水入らずで楽しもうとしている卒業旅行に、水を差すことになりかねない。そもそもこの「テッパンコース」とは、完全に私の趣味に過ぎないではないか。私はひどく反省した。
それでも行きがかり上、翌日のお昼まで、つまり、景福宮の見学と、土俗村(トソクチョン)のサムゲタンまで、彼らと一緒に行動することになった。
9日の午後2時、土俗村を出て、景福宮駅でお別れである。私はこの日の夕方に帰国しなければならない。
これでよかったのかなあと逡巡していると、
「先生、いろいろとありがとうございました」と別れの挨拶。「今度は卒業祝賀会で会いましょう」 そう言って、彼らは景福宮駅から地下鉄に乗って、仁寺洞に向かった。
私たちはこのあと金浦空港に向かい、帰国した。
「あいつら、ちゃんと観光しているだろうか…」帰りの飛行機の中で妻に言うと、
「大丈夫でしょう。彼らの旅行なんだから」と妻。
そうだよな、あまり気を揉む必要もないよな、と思い直した。
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