矢野顕子、忌野清志郎を歌う
4月24日(水)
作業仲間のSさんが、「地元で矢野顕子がライブをしますよ」と教えてくれた。Sさんは、矢野顕子の大ファンだそうである。
というタイトルのCDが、今年の初めに出た。矢野顕子が、忌野清志郎の曲をカバーしたアルバムである。そのツアーとして、この地元にやってくるのだ。
この機会を逃す手はない。
私にとっては、初めての「生」矢野顕子である。ということで、雨の中、職場から歩いてライブ会場に向かった。
200人ほどが入る小さなホール。舞台の背後にはスクリーン、そして中央にはグランドピアノが置かれていた。
6時半開演。
会場が暗くなると、舞台の後ろのスクリーンに、過去のライブ映像が映し出された。
忌野清志郎と矢野顕子の2人が歌う名曲「ひとつだけ」である。私が動画サイトで何度も見たことのある映像だった。
もうこの時点で、涙腺が緩む。
スクリーンの2人が「ひとつだけ」の1コーラス目を歌い終わったあたりで、「本物の」矢野顕子が舞台に登場した。
ピアノの前に座った矢野顕子は、おもむろにピアノを弾き始める。いつの間にかスクリーンの映像は消え、舞台では「雑踏」という歌がはじまっていた。もちろん、清志郎の曲である。
「会いたい人がいるんだ
どうしようもなく
会いたい人がいるんだ」
まるで忌野清志郎に向かって歌いかけているように思えて、ここで号泣である。
不思議である。
忌野清志郎が紡いだ歌なのに、矢野顕子が歌うと、忌野清志郎に対する思いを歌った歌のように聞こえてしまう。
途中のMCで、矢野顕子はこんなことを言っていた。
「RCサクセションや忌野清志郎のファンなら誰でも知っている歌。
そういう歌は、これからもいろいろな人に歌い継がれるでしょう。
でも、あまり知られていない歌のなかにも、
絶対に絶やしてはいけない歌があります。
私はそういう曲を選びました」
たしかに、矢野顕子がカバーした曲の多くは、誰もが知っている曲というわけではない。
そこにまなざしを向け、これほどまでに思いを込めて歌いあげる矢野顕子にとって、忌野清志郎は、どんな存在だったのだろう?
友情、という陳腐な言葉では、表現できないような、深いところでの信頼関係、とでも言おうか。
スクリーンに映し出された2人のライブ映像を見れば、それがよくわかる。
最後の曲は、「ひとつだけ」だった。この曲をデュエットするなら、忌野清志郎しかいない、と決めていたという。
「離れているときでも わたしのこと
忘れないでいてほしい ねえお願い
悲しい気分の時も わたしのこと
すぐに呼びだしてほしいの ねえお願い」
何度もくり返し歌っていたこの部分は、やはり忌野清志郎に向けて歌っていたのかも知れない、と思った。
私はこの「ひとつだけ」を、「生」で聞けただけでも、もう思い残すことはない。
アンコールで、
「私にとって世界でいちばん優しい歌です」
と前置きして歌ったのが、忌野清志郎の「セラピー」である。
「本当の心は 言い出せずじまい
いつでも感じすぎる 孤独なため息
そんな奴も たまにいるものさ
頭のなかは 大変だろうな
果てしない夜 おびえる靴で
どこまで歩けるか また試してる
そんなに 心配するなよ
頭の外も 大変なだけさ」
最初から最後まで号泣しっぱなしのライブだった。
ライブが終わって外に出ると、雨はあがっていた。
「雨あがりの夜空、だな」
私は夜空に向かって、そうつぶやいた。
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コメント
うわっ、コメントの神様と馬鹿コメントを書いてたら、歌の神様に会いそびれちまった。
そのライブ、今日だったんだ。
先ほどの反省文と違って、心から反省。
ひとつだけ
http://www.youtube.com/watch?v=R8DmAx-3Bko
ちなみに、僕の好きなのは僕の好きなおじさんです。
投稿: 本当に反省こぶぎ | 2013年4月24日 (水) 23時13分
おっと!こっちも馬鹿コメントを書いていたら、早速こちらにもコメントが。
ライブが終わったあとは、しばらく放心状態でした。
投稿: onigawaragonzou | 2013年4月24日 (水) 23時32分