嵐のようなあいつ
3月30日(土)
「今日は、ちょっと遅れてエーシマが来ますよ」
「へえ、エーシマが来るのか!」
エーシマは、高校時代のブラスバンド部の1学年下の後輩で、同じ楽器パートだった女子である。大学卒業後は外資系の企業に就職し、いまは北関東にある工場に配属されている。
エーシマは、個性的で、やかましくて、おもしろいやつである。3年に一度くらい、ふらりと飲み会に姿を見せる。前回会ったのが2010年の5月だったから、やはり3年ぶりくらいである。連絡先もわからないので、ふだんは連絡を交わしたこともない。
遅れてやってきたエーシマは、私の隣に座ったかと思うと、「久しぶり」と声をかけるまもなく、まくし立てるように話しはじめた。といっても、「ガールズトーク」的な話とは、正反対の話である。
「職場では英語しか使ってはいけないので、タイヘンですよ」
「高校時代は、英語そんなに得意じゃなかったのにな。語学で必要なのは?」
「もちろん、『ガッツ』です!」
そこからひとしきり、語学の上達法の話になる。
「いまでもアルフィーとボンジョヴィのコンサートには行ってるんだろ?」
「当然です。こんどの7月も、ボンジョヴィのコンサートのためにボストンに行くんですよ。1枚400ドルのチケットですよ!」
外資系の企業に勤め、独身貴族を謳歌しているエーシマだからこそできることである。
「先輩、いまだに妄想癖が強いんでしょう?」
「よくわかってるなあ」
「そりゃあ、むかしからそうでしたやん」
本当の友達とは、何十年ぶりに会っても、昨日の話の続きのように話のできるような人のことだ、とある人は言ったが、まさにそんな感じである。
「最近見た映画は?」
「『レ・ミゼラブル』ですよ」
「あれ、見たか?」
「当然ですよ」
ほかの連中が「見てない」というと、
「絶対見た方がいいって!」とエーシマが力説する。
「そうだよな。絶対見るべきだよな」と私。「ちなみに、いちばんよかったのは?」
「エポニーヌですよ」
「やっぱりエポニーヌだよな!」
ほんと、久しぶりに会ったとは思えないほど、すがすがしい会話である。
夜10時。一次会が終了した。
「これから北関東まで帰らなきゃいけないんで、これで」
コーラしか飲んでいないのに、エーシマのテンションは、最初から最後まで高校時代と同じだった。
嵐のようにやってきて、嵐のように去っていく。
エーシマの生き方のスタイルは、高校時代から変わっていない。
「不思議だよなあ」
「ミヤモトさんサミット」の議長ことSが、走り去るエーシマの後ろ姿を見ながらつぶやく。
「あいつ、高校時代から、顔かたちがまったく変わってないんだよなあ」
「そうだな。あんなに高校時代のままってやつも、めずらしい」
これは、エーシマに関する、最大の謎である。
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