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私が間違っていたのか?

5月27日(月)

あまりに忙しく、1日があっという間に終わる。

それでも予定の仕事は全然終わらない。

禁じ手ですけど、完全な愚痴ですよ。

たまたま新聞を読んでいたら、うちの職場がこの4月から「社会人力」を育てる講座を始めた、という。

私はこの「○○力」という言葉が大嫌いである。

私の記憶では、この言葉を最初に用いたのは、たぶん赤瀬川源平の「老人力」という言葉だと思う。

その時点では、なかなか面白い言葉だ、と思った。老人、というマイナスイメージをプラスに変えるための「開き直りの言葉」だと、私は当時、そう理解した。

ところが、ガハハなおじさんたちが、使い勝手がいい言葉だってことに気づいちゃったんだろうね。調子に乗って「○○力」なんて言葉を得意気に使い始めた。

私は「○○力」という言葉を見るたびに、「これって、『老人力』のパロディなんだよな…本来のニュアンスとは全然違うんだけど!」と思うことにしている。

「社会人力」ともなると、もう何だか意味が全然分からない。

それはともかく。

その新聞記事を読んで驚愕した。

学生どうしで、グループワークをしながら、社会が抱えるさまざまな問題に対して、アイデアを出していく、という授業をしているという。

その授業形式じたいは全然かまわない。

だがその記事によれば、「アイデアを思いついたら取りあえず言う」「批判厳禁」「質より量」の三つが、その授業で心がけていることだという。

ええええぇぇぇぇぇっ!

私はショックを受けた。

なぜなら私は、ふだんの授業で、これとはまったく正反対のことを教えているからだ!

「批判精神」「熟慮すること」「量より質」

とくに1年生向けの授業では、肩書きのある立派な人が、如何にいい加減なことを言っているか、という事例を紹介し、「肩書きが立派な人の考えだからといって鵜呑みにしてはいけない。疑い深く生きよ!」と、口を酸っぱくして言っているのである。

おかげで授業の感想蘭には、「先生の授業を聞いて、いったい何を信じていいかサッパリわからなくなりました」「先生のおかげで、すっかり疑い深くなりました」という感想が目立つ。

だが、これでは「社会人力」はとうてい育たない、ということらしい。

そもそも、大学というところは、批判精神をはぐくむところだったのではないか?それを自ら封じてしまうことは、自殺行為になりかねないのではないか?

「そんなこと言ったって、批判ばかりしていたら、良いアイデアが出ないじゃないか」という反論があるかもしれない。

はたしてそうだろうか?健全な批判は、必ずしも事態を停滞させるものではない。むしろ、批判なきアイデアこそ危険である。大事なことは、揚げ足取りの批判にならないための、健全な批判精神を養うことではないか?

それとも、こんな考え方じたいが古いのか?

お互い批判などせず、誉め合いながら、その気にさせて、どんどんアイデアを出していきましょう。それが大人というもんです、ということらしい。

もう私には、何がなんだかわからなくなった。

とりあえず、私のような古い考えでは、「社会人力」が身につかない、ということだけはわかった。

そんなこんなで鬱々としていると、今日は仕事の合間に、4年生が入れかわりたちかわり話をしにやってきた。

例年のことだが、この時期の4年生は、公務員試験で精神的にかなり追いつめられている。今置かれている状況を、いろいろと話してくれた。

彼女たちは、精神的に追いつめられながらも、自分が置かれている状況を、かなり冷静に見ている。また、就職活動を通じて体験するさまざまなことに、批判的なまなざしを向けることも忘れない。

「そんなふうに考えるのって、ヘンでしょうか?」

「全然ヘンじゃないよ。私だってそう思うよ」

「そうですか。自分だけじゃないんですね。話してみて、少し楽になりました」

「話をするのはいいものでな、どんなに苦しいことでも話をすれば少しは楽になる」というのは、映画「七人の侍」の平八のセリフである。

彼女たちと話をしていると、十分に「社会人力」が身についているじゃないか、と思う。

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日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事

コメント

今日の講座ではブレイン・ストーミングの練習をします。

このブレイン・ストーミングとは、ディスカッション技法の一つで、「アイデアを思いついたら取りあえず言う」「批判厳禁」「質より量」をモットーとして、思いついたアイデアを、どんどん出してもらうことになります。

「量より質」なんて古くさいことを言う人もいるようですが、いま流行の「ビックデータ」を使えば、こんなすばらしいことだってできますよ。

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社員の言葉1万件、ビッグデータ解析で一つの社歌に

 ITサービス大手のNTTデータは、インターネット上の膨大な情報「ビッグデータ」を解析する技術を使い、国内外のグループ社員6万人のための歌をつくった。社員から集めた1万以上の言葉を分析し、くみ取ったメッセージを歌詞にまとめた。

 歌づくりを前に「大切なこと」などのテーマで言葉を募ると、15カ国の社員1251人から1万件を超す言葉が集まった。

 よく使われる言葉や内容の傾向を抜き出せる得意の言語解析システムで分析したところ、集まった言葉は「つながろう」「チャレンジしよう」「支え合おう」の三つに分類できた。
(2013.5.28 朝日新聞デジタル版)
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(ハイ!)先生、質問です。社員がよく使う言葉と言えば、「給料上げろ」「上司がバカだから」「こんな会社辞めてやる」の3つに分類するのが自然じゃないんですか?

いいえ。これが「質より量」の分析力です。君は、思いつきだけで話さないように。

では、今日の演習の課題は「映画評論家の決めゼリフ」です。先生がホワイトボードに書き留めていきますから、思いついた人から、どんどん発言して下さい。


「いやあ、映画って、本当にいいもんですね」

「ハイ、それではみなさん、サヨナラ、サヨナラ、サヨナラ」

「あなたのハートには、何が残りましたか?」

「オバちゃまはね…」

「おすぎです!」

たくさん出ましたね。最初に言いませんでしたが、ブレイン・ストーミングには「アイデアの結合と改善を求める」というルールもあるんですよ。それでは、今あるアイデアに、付け足したり、組み合わせたりしてみて下さい。


「あなたのハートには、何が残りましたか? 私は、おすぎです!」

「オバちゃまはね… サヨナラ、サヨナラ、サヨナラ」

(ボンちゃんの袈裟姿で) 「おすぎです!」

(小松政夫風の眉毛メガネで) 
「ハイ、あなたのハートには、何が残りましたか? ワタクシには何も残りませんでしたねぇ。それではみなさん、サヨナラ、サヨナラ、サヨナラ」

(アメリカン・ポリスの扮装で) 「こんばんは、荻昌弘です」

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(追伸)
 先日、高速をぶっ飛ばして「建築学概論」見て来ましたけど、最後の芝生の上で寝っ転がるシーンのあたりで、さめざめと泣いている人はいましたが、こぶぎは恋愛力が足りないので、泣きませんでした。

 勢いついでに、オム・テウンの「シラノ:恋愛操作団」もネットで探して見ちゃいましたが、彼が主役を張るとこんな落ち着いたテイストになるんでしょう。しかし、オム・テウンってびっくりすると、犬みたいな顔になりますな。

 でも、「建築学概論ごっこ」は、自分の授業でしてみたい誘惑には駆られます。自分の住んでいる町を「旅行」してこい、とか宿題に出したりしてね。

投稿: こぶぎ | 2013年5月28日 (火) 09時05分

A いやあ、お恥ずかしい。

B そうですよ。あなた、ブレインストーミングというのを、知らなかったんですか?

A もちろん言葉は聞いたことがありますが、「アイデアを思いつくままに言う」「批判厳禁」「質より量」が、ブレインストーミングの基本的な手法だったとはねえ。

B いまじゃあ、社会科学系(法律・政治・経済)のゼミでは、みんなこの「ブレインストーミング」をやっているんですよ。そんなの常識です。あなた、完全に取り残されています。

A そうでしたか…。…この稼業、失格ですね。

B そうです。時代遅れも甚だしい!

A なにしろ私、「アイスブレーキング」という言葉の意味も、知りませんでしたから。

B え?

A 「アイスを食べて一休みする」という意味だと思っていました。

B それは「デブの理屈」です!

A というわけで、これからは、ブレインストーミングを、どんどん取り入れていくことにします。

B どんなことをするんです?

A 「どんな味のガリガリ君なら売れるか?」をブレインストーミングします。まずは「コーンポタージュ味」から…

B またアイスの話かい!

(追伸)
オム・テウンは、無類の愛犬家ですからね。「建築学概論」、見に行きたいなあ。「建築学概論ごっこ」おもしろそうですね。

投稿: onigawaragonzou | 2013年5月28日 (火) 21時02分

ブレインストーミングアイスと言えば、石巻の風月堂。
http://www.kisyoku.info/ice12.htm

まさに、ブレインストーム(脳内嵐)級のラインナップですぜ(ホームページ下方の「アイス天国」も忘れずにクリックすべし)。

私めも、某所で「若鮎アイス」を食べたことがありますが、相当生臭かったなあ。「カレーをあいす」というのも食べましたけど、ネーミングだけで、カレーライスにアイスをトッピングするのは、正直いかがなものかと。

投稿: こぶぎをアイス | 2013年5月28日 (火) 22時24分

石巻の風月堂、初めて知りましたが、グッときますねえ。

というか、このコメントの流れは、たいへんすばらしい!と自画自賛。

あと、「荻昌弘」をどうしても本文中に入れたかったんですが、「決めゼリフ」が思いあたらず、泣く泣くカットしてしまったんです。それをコメント欄でフォローしてくれたこぶぎさん、あんた神だよ!

投稿: onigawragonzou | 2013年5月29日 (水) 00時48分

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