平成の大悪党、締切破り吉三(きちざ)とは俺のこと
5月16日(木)
私は「怖い人」とは思われていなかったらしい。
むしろ、締め切りをすぎても会合の出欠の返事を出さなかったことのほうが、若手を中心にした仲良しグループの間でランチの時の恰好の話題になっていたらしい。
つまり、「怖い人」ではなく、「ダメな人」と思われていたということだな。
以前こぶぎさんからは、「平成の大悪党、締切破り吉三(きちざ)」と命名されたことがあったから、これに関しては一言もない。
しかしですよ。
原稿に関していえば、かなりがんばっているのだが、地味に依頼が多いので、全然こなせていないのだ。
そのうえ、最近はこんなことがあった。
出版社の編集者には、出版社の方針によるのか、編集者の個性によるのか、とにかくいろいろな人がいる。
書いた原稿を、そのまま印刷所に入稿してしまうところもあれば、編集者が、かなり入念にチェックするところもある。
ある出版社の企画で、どうしても、ある本の執筆者の1人として、かかわらなければならなくなった。
気が進まなかったのだが、気が進まない原稿ほど、早めに仕上げておこうと思い、執筆者の中で、一番乗りで原稿を出した。昨年11月のことである。
しかし待てど暮らせど、初校があがってこない。どうやら、原稿を出していない人がいるらしい。
やっとのことで、5月になって初校が出てきた。
初校には、編集者によってかなり赤が入っていた。それ自体は、ありがたいことである。
しかし、こんなことも書いてあった。
「この部分、表現がくどいので、こんな感じに直してみたらどうでしょうか」
と、編集者による「改善案」が書かれていた。
まあ、こういうことは、ないわけではない。しかし、はっきりと「くどい」と言われてしまった。
私の文章は、「くどい」のが持ち味だと思っていたのに…。
それを聞いた妻が言う。
「じゃあ、谷川俊太郎の詩に、編集者が赤を入れるかって話だよね」
蓋し名言である。レベルは全然違うが、そんな心境である。
こっちは無名の人間だし、仕方がない。編集者の方針にしたがって、文章を直して、初校を期日までに返したのである。
そしたら昨日、編集者から電話があった。
「あのう、…大変申し訳ないんですが…」
「何でしょう?」
「お書きになった御原稿、全面的に書き直していただけないでしょうか」
「え?どういうことです?昨日初校を返したばかりですよ」
「編集部でも話し合ったのですが、お書きになった御文章が、本書の方針にそぐわないものでして…」
「ちょ、ちょっと待ってください。私は編者の方に言われて、その方針通りに書いただけですけど」
「それはよくわかります。しかし私ども編集部で、編者の先生に何度もこちらの方針をお伝えしたんですけれども、なかなか伝わらなかったみたいで…」
「でも、そんなこと全然聞いてませんでしたよ」
「申し訳ありません」
どうもよくわからないが、私が「貧乏くじ」を引いたことだけは確かなようである。
この期に及んで「全面書き直し」とは、前代未聞である。
「わかりましたわかりました。じゃあ、今から書き直します」
「すみません。お願いします」
ただでさえ、あちこちから矢の催促が来ているのに、この上、一度書いた文章をぜんぶ破棄して、全面的に書き直すことほど、徒労に感じる仕事はない。しかも、編集部から出された新たな注文は、以前よりも面倒なものであった。
締め切りを誰より早く守っても、先方の事情で書き直しをさせられることもあるのだ。で、結果的に私が周りに迷惑をかけたみたいになる。
「あんたはさっきから締め切り、締め切りと言うが、締め切りって何かね?」
たしかドラマ「北の国から」で、菅原文太がそんなセリフ言ってなかったっけ?
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