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大貫妙子の贈り物

ちょっと真剣に考えてもらいたいのだが。

なぜ、大貫妙子はもっと評価されないのか?

決してマイナーな存在ではない。たとえば、「夏に恋する女たち」(ドラマ「金曜日の妻たちへ」の主題歌)とか、「宇宙(コスモス)見つけた」(NHK[おしゃべり人物伝」の主題歌)は、自分自身の世界観を貫きつつ、番組制作者の意図を汲んで、過剰なまでにサービスした楽曲に仕上がっている。

これをプロと言わずして、何と言おう。

61nqam8exgl__aa300_大貫妙子のベストアルバムは数多く出ているが、学生時代に買ったアルバム「CLASSICS」が、私にとっては最高のベストアルバムである。

1.黒のクレール

2.夏に恋する女たち

3.色彩都市

4.風の道

5.みずうみ

6.恋人達の明日

7.CARNAVAL

8.雨の夜明け

9.グランプリ

10.レシピ―

11.海と少年

12.突然の贈り物

ほら、名曲揃いでしょう。

大貫妙子の歌詞の魅力は、「全体を流れるストーリー」にあるのではない。

歌詞の中の断片的なフレーズが、聴く者の想像力を喚起するところにあるのだ。

たとえば、「突然の贈り物」という名曲がある。

「突然の贈り物

甘く香る花束

頬を寄せて抱きしめるぬくもり

別れも告げないで

独りぼっちにさせた

いつの間にか

六度目の春の日

置き忘れたもの

何もかもそのままにあるの

幸せでいたならそれでよかった」

これが1番の歌詞である。たとえばこの歌詞の中で、

「別れも告げないで

独りぼっちにさせた」

とか、

「置き忘れたもの

何もかもそのままにあるの」

とか、

「幸せでいたならそれでよかった」

とか、そのフレーズだけを切りとっても、聴く者は自らの体験になぞらえて自分なりのストーリーを想像することができる。

2番の歌詞も同様である。

「あなたの気まぐれに

つきあった仲でしょ

いつだって嘘だけは嫌なの

必ず待ち合わせた

店も名前を変えた

この町へ戻ってきたのね

初めて出逢った時のように

心がふるえる

訪ねてくれるまで待っているわ

みんなと始めた

新しい仕事にも慣れて

元気でいるから安心してね」

これも、歌詞全体のストーリーを追う必要はない。

「あなたの気まぐれに

つきあった仲でしょ」

とか、

「必ず待ち合わせた

店も名前を変えた」

とか、

「初めて出逢った時のように

心がふるえる」

とか

「訪ねてくれるまで待っているわ」

とか、

「みんなと始めた

新しい仕事にも慣れて

元気でいるから安心してね」

とか、こうしたフレーズだけを切りとっても、聴く者の想像力を喚起させ、自らの思い出と結びつけて物語を作らせるほどの力を、やはり持っているのだ。

「風の道」の歌詞もそうである。

「今では他人と呼ばれる二人に

決して譲れぬ生き方があった」

「お互い寄り添う月日を思えば

交わす言葉もないほど短い」

大貫妙子の提示した歌詞は、あくまでもかりそめのストーリーに過ぎない。

聴く側の感性や想像力によってストーリーをいかようにも紡ぐことができるような仕掛けが、歌詞の中にちりばめられているのである。

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音楽」カテゴリの記事

コメント

こちらこそ、もっと真剣に考えてもらいたいのだが。

なぜ、鈴木祥子はもっと評価されないのか?

決してマイナーな存在ではない。たとえば、小泉今日子の「優しい雨」などヒット曲の提供もしたし、作詞作曲はもとより、ボーカルからドラムスまで一人でこなせる才女であり、1980年代からずっと活動し続けるアーティストである。

これをプロと言わずして、何と言おう。

鈴木祥子のベストアルバムは数多く出ているが、学生時代に買った「Harvest(ハーベスト)」が、私にとっては最高のベストアルバムである。


鈴木祥子/Harvest(ハーベスト)

1. スワロー

2. ステイションワゴン

3. 水の冠

4. 愛はいつも

5. サンデー・バザール

6. スウィート・スウィート・ベイビー

7. あなたを知っているから

8. 夏はどこへ行った

9. どこにもかえらない

10. リトル・ラヴ

11. かもめ

12. 風に折れない花


ね、初期の名曲揃いでしょう。

まだインターネットが文字だけで「telnet(テルネット)」と呼ばれていた時代、fj(フロム・ジャパン)ユーザグループの音楽掲示板に書きこまれていた「鈴木祥子、いいよ」の一行を見つけ、何気なしに「スワロー」のMIDI(ミディ)音源を探してNECのパソコンで鳴らした時の衝撃といったら!

以来、このコメント欄でも書いたかもしれないが、京都までライブに行ったこともあるし、同姓同名の学生が入学した時には、サインをもらいに行ったくらいのファンなのである(書いてもらえなかったけど)。


鈴木祥子の歌詞の魅力は、「全体を流れるストーリー」にある。

歌詞の中の断片的なフレーズが、聴く者の想像力を紡ぐのである。


たとえば、「Swallow」という曲がある。


「ねぇ 寂しいの」と

居眠りする横顔につぶやく

バスの終点から乗り継いでく

時刻表たどりながら


故郷 その文字で

気が楽になるなら

あなた 住む家が

見つかることを祈るだけ


Come home alone

時は誰にも 平等に流れ

さよなら そう告げるため

あなたは目覚める


ただ 帰りたくて 帰りたくて

帰ったのに

街では 何もなかったよに

風が吹いて

一日がまた始まる


屋根に住みついて

季節越えたスワロー

ダリア咲く庭を

軽々 空に飛んでゆく


※Come home again

四月はじめに 旅した記憶は

あなたが元気でいるように

願いに変わるの※


(※くり返し)


どうだ、この世界観。ちょっと奥さん、実にキュンキュンするぢゃないか。

こうした印象的なフレーズの連続が、聴く者の想像力を喚起させ、自らの思い出と結びつけて物語を作らせるほどの力を、やはり持っているのだ。


たとえば、「あたらしい愛の詩」という名曲がある。


東京の夕暮れは 予感のように美しい
夢みてた自由が あなたを壊してしまうとき

ひとりになるのが怖くって 誰かにささえてほしくって
いつでもわがままでごめんね。
あなたがいて幸せだった。

I still love you、ここで
暮らした日を忘れない。
孤独に負けない力を与えてください。

愛されてることに甘えながら生きてきた
愛することよりも 自分だけが大事だった

この街で育ってきたって
ふるさとはどこにもなくって
海がひろがる陸橋に立って、
深い夜を抱いているよ。

愛がただの名前にすぎなくなって、
ふたりが違う自由を探しても
そこにいつもあなたがいて幸せだった。

I still love you、 ここで
過ごした日を忘れない。
孤独に負けない 勇気を与えてください。
力を与えてください。

どうか守ってください。
力を与えてください。
孤独に負けないように。
自由に負けないように。


どうだ、実人生で離婚を経験した彼女が、ここまで歌ちゃっているのである。

鈴木祥子さんの提示した歌詞は、あくまでもかりそめのストーリーかも過ぎない。

でも、聴く側の感性や想像力によってストーリーをいかようにも紡ぐことができるような仕掛けが、歌詞の中にちりばめられているのである。


---

優しい雨
http://www.youtube.com/watch?v=uxi_M7KFCqU

Swallow
http://www.youtube.com/watch?v=orxrrET_CIQ

あたらしい愛の詩
http://www.youtube.com/watch?v=PYR7JFKzUYk

投稿: 風に折れないこぶぎ | 2013年5月31日 (金) 10時06分

A やられたー!

B やられましたね。

A 誰にも書けない大貫妙子論をめざしたつもりなのに、簡単に応用されてしまった。

B つまり、思い入れのある歌手には、すべてにあてはめることができる文章だ、ということです。

A そうか。ということは、これは評論でも何でもない、ということですね。これで、映画評論家の道に引き続き、音楽評論家の道も途絶えてしまった。

B ほかの道を探しましょう。

投稿: onigawaragonzou | 2013年5月31日 (金) 22時29分

 否、剣道だって空手だって、型というのは大事なもので、読んですぐネタのインスピレーションが湧く文章は、コメントする側も助かるのです。

 それはさておき、こんなに深いコメント欄の底まで読んで下さる、よい子の皆さんはお気づきかと思いますが、左横の欄にココログ広場に棲息するという、「アバダー」さんのご尊顔が表示されるようになりました。

 しかも、しょっぱなから、実に面倒くさいことをつぶやき始めております。こちらの方もご期待くださいませ。

投稿: こぶぎ | 2013年6月 4日 (火) 01時29分

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