惜しみなく技は伝う
5月25日(土)
以前、「みんなで力を合わせてビフォーアフター」という記事を書いた。
今日はその続編。
この石碑には、オモテ面と裏面に文字が刻まれている。
オモテ面の拓本が、一昨年、職場で発見された。明治時代、この石碑が建立された時にとられた拓本である。
しかし、裏面の拓本は存在していない。
今年に入って、裏面の拓本ををとらせていただきたい、と、東京のHさんから依頼が来た。
この事情を話せば長くなるが、Hさんは、拓本をとる職人さんである。
昨年9月、私が職場の公開講座でこの石碑について紹介したところ、Hさんは、石碑の裏面に書かれた石碑建立の発起人の一人の名前に、自分の先祖にあたる人の名が刻まれていたのを発見する。
自分の先祖の名が刻まれた石碑の拓本を、自分の手でとってみたい、というわけである。
拓本の職人さんによって、まだ作られたことのない裏面の拓本が作られる。
まるで、未完成の映画のラストシーンを撮るようなものではないか!(また始まった)。
せっかくだから、希望する学生たちにも、この職人さんの技術を間近に見てもらって、少しでもその技術を体得してもらおう。
…ということで、「拓本実習」を企画することにした。
またまた、われながら面倒な企画を考えてしまったものだ。
学生に希望を募ったところ、なんと8名の学生が参加してくれた。単位にも、アルバイトにもならないのに、ありがたいことである。それに卒業生で職員のT君と、この4月から職員になったOさんの2人も参加してくれた。
朝10時、作業開始。
午前中は、拓本の職人であるHさんによる講義である。実際に拓本を取りながら、拓本をとるための注意点を教えていただく。
そもそも私は、職人技、というものに憧れているのだ。
どちらかといえば、芸術家肌の人よりも、職人肌の人に憧れる。
若い時に「本物」を見ることは、その後の自分の進むべき道に大きな影響を与える、というのは、私の持論である。
さて、お昼休みのあと、いよいよ午後からは、学生たちが拓本をとる体験をする。
公園内にある石碑を選んで、まずは「乾拓」と呼ばれる、水を使わない方法で採拓する。
2人がペアになっての作業。
さすが、若いというのは、飲み込みが早い。
だが、「乾拓」というのは、いわば簡易に拓本をとる方法なので、やはり少し物足りなさそうである。
一通り「乾拓」が終わったら、今度はいよいよ「湿拓」である。水を使った、本格的な採拓作業である。
午前中に見た一連の作業を、今度は自分たちの手でおこなうのである。
3つのチームに分かれておこなう。
それぞれのチームは、個性が違っていて、その個性が、拓本に見事にあらわれていた。
まさに「拓本は人なり」である。
そんなこんなで、午後5時過ぎ、長かった「拓本実習」は終了した。
拓本職人のHさんは、「若い人のために」と、ご自身の持っている技術を、惜しみなく私たちに伝えてくれた。Hさんは、まる1日、本当に楽しそうに作業をされていた。根っから好きなのだろうな、と思う。
惜しみなく技術を提供する職人さんも、それを受け取る学生も、その間には、なんの利害関係もない。
「お金」とか「単位」とか、そういった世知辛いものとは、無縁の1日。
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