携帯電話ミステリー
6月16日(日)
朝9時過ぎ、アパートの部屋の固定電話が鳴った。関西に出張中の妻からである。
「一体どういうこと?」
「何が?」
「さっき、携帯に電話してきたでしょう?」
「してないよ」
だいいち私は、少し前に起きたばかりなのだ。
「してきたよ。8時41分。確認してみてよ」
8時41分とは、ちょうど私が目覚めたころの時刻だ。
私はいつも自分の布団の横に携帯電話を置いて寝ている。休日、予定のない日は特に目覚ましをかけないが、たしか、目が覚めたときに時計を確認したところ、ちょうどそのくらいの時間だった。
そのあと私は布団を出て、寝ている部屋から居間に移った。携帯電話は、布団の横に置きっぱなしだった。
携帯電話を取りに行って確認すると、たしかに8時41分に妻に電話をかけていることが、発信履歴からわかった。
「たしかにかけてるねえ」
「それで、それが無言電話だったものだから、2回もこっちから連絡したんだから」
たしかに、着信履歴を見ると、その後妻から2回、電話があったことがわかる。だが、マナーモードにしていたため、気づかなかったようである。
「電話した覚えないんだけどなあ」
まったく、覚えていないのだ。それに、電話をかける用事もなかった。
日頃、妻の方から私に電話が来るなんてことはめったにないのだが、妻がわざわざ固定電話にまでかけてきた、というのには、理由があった。
それは、私がもしや心臓発作で倒れたのではないか、と、妻が想像したからだそうなのである。
妻が想像したのは、こういうことだった。
朝、私が突然心臓発作か何かを起こし、助けを求めようと、妻に電話をかける。
妻は私からの電話をとり、「もしもし、もしもし」と何度も呼びかけるが、私はまったくそれに応えない。
もしや、最後の力を振り絞って電話をかけてきたまではいいが、電話に出たとたん、「事切れて」しまったのではないか???
心配になって、妻は私の携帯電話にかけ直すのだが、何度かけても、私が電話をとる気配がない。
「ああ、やはり死んでしまったのか…」
念のため、固定電話にかけてみたところ、私が出た、というわけである。
最近「忙しい忙しい」という言葉を連発していたことも、心臓発作疑惑に拍車をかけたのであろう。
「これからは、そういうときは119番にかけるように」
そう言って、妻は電話を切った。
ただ、妻の方も、今朝は目覚ましの設定を間違えたせいで目覚ましが鳴らず、危うく出張先に遅れてしまいそうだったところを、私の電話が鳴ったおかげで起きることができ、出張先に間に合ったのだという。
こうなると、何のための電話だったのか、よくわからない。
…いや、そんなことよりも、もっと重要なことがある。
心臓発作疑惑は晴れたとしても、私がなぜ、まったく意識がないままに妻に電話をしたのか、という謎が、まだ解けていない。
むしろその方が、深刻な問題ではないだろうか?
この先も、私は意識がないままに、寝ている間に誰彼かまわず電話をかけるのだろうか?
そう考えると、コワイ。
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