UTAU
大貫妙子・坂本龍一のアルバム「UTAU」を聴く。
私にとっては、理想の組み合わせである。
80年代、坂本龍一は、大貫妙子の歌の編曲を数多く担当していた。
何度も書くように、このころの坂本龍一の編曲は、神がかっているほど、すばらしい。
完璧、としかいいようのない編曲である。
坂本が、いかに大貫の歌に惚れ込んでいたかがわかる。
私の記憶では、そのあとしばらくの間、二人は一緒に仕事をしなくなり、それぞれの世界で、活躍していた。
そしてまた最近、久しぶりに一緒に仕事をはじめたということなのだろう。
その距離感がすばらしい。
久しぶりに聴いた二人の音楽もまた、すばらしい。
このアルバムに対する坂本龍一の力の入れよう、心の込め方は、尋常ではない。
やはり坂本は、大貫の歌に、心底惚れ込んでいるのである。
アルバムの最後の曲は、大貫妙子の昔の名曲「風の道」である。
インターネットの動画サイトに、このアルバムが出たあとに行われたライブの映像を見つけた。
アンコール曲は「風の道」だった。
曲に入る前、坂本龍一が大貫妙子に言う。
「ちなみにこのオリジナル曲も、僕のアレンジではありませんでしたよね」
「そうです」大貫妙子が苦笑する。
「根に持つタイプなんで…」と坂本。
会場が笑いに包まれる。
「よかったです。今回一緒にできて。ありがとうございます」と大貫。
やれやれ、また始まった、という表情で、大貫妙子は坂本の「いじけたような冗談」に応える。
そしておもむろに、坂本がピアノを弾き始め、曲が始まる。もちろん今回は、坂本によるアレンジである。
そうか、「風の道」は、もともと坂本龍一の編曲ではなかったのか。
この会話の中に、「風の道」を自分が編曲できなかったことに対する嫉妬や、「俺なら、この曲の良さをもっと引き出せたのに」という自信が、見え隠れする。
中高生のころ、坂本龍一のFM番組「サウンドストリート」を毎週聴いていたが、そこでの語りから、坂本龍一が「根に持つタイプ」であることは、十分にうかがい知ることができた。だからこれは、たぶん本音なのである。
そして今回、このアルバムで、坂本のアレンジによる「風の道」が収録されたのは、坂本の宿願だったのかもしれない。
私はこの、坂本龍一の「器(うつわ)の小ささ」が、大好きなのである。
「世界のサカモト」も、私と同じように、根に持ったり、嫉妬したりする、「器の小さい人間」であるということに、私は共感していたのである。
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