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大雨の1日

7月18日(木)

昨夜から今日にかけて、記録的な豪雨である。

県内の鉄道は、のきなみ運休になってしまった。

午後3時。東京から出版社の編集者が来た。

「よく来られましたねえ。鉄道は止まっていたでしょう?」

「昨晩は隣県に泊まりましたので、幸い大丈夫でした」

会ったこともなく、どんな人間なのかもわからない私に、どういうわけか目をつけて、仕事の依頼に来たのである。

「私なんか無名だし、売れるとは思いませんよ」

「いえ、でも私、ピンと来たんです。これだ!と」

コネでも何でもないところが、すばらしい。

しかもこんな大雨の中、わざわざ来てくれたとあれば、仕事を引き受けざるを得ない。

また自分の首をしめることになるが、仕方がない。2時間半ほど話をして、同じ方向を向いている人かも知れない、と思い、引き受けることにした。

帰りがけ、

「これ、弊社で作った手帳です。よかったらお使いください」

「はあ」

「書籍デザイナーが、『自分の使いやすい手帳を作る』といって、中身のレイアウトや装幀、紙の質に至るまで、こだわって作った手帳なんです。それを弊社で商品にしました」

「このデザイナー、私も知ってます!」つまり私が知っているくらい有名なデザイナーである。

「それはよかった。…でもこの手帳、とても個性的だったせいか、全然売れなかったんです」

「そんなことはないでしょう。ちょっと拝見」

中身を見た。

「…たしかに個性的なレイアウトですねえ。…最初はどうやって使ったらいいか、戸惑ってしまいそうです」と私。この手帳は、罫線のひき方に斬新な特徴があった。

「そうでしょう。もちろん、使いこなしている方もとても多いのですが、慣れるまでがちょっとねえ…」

「いや、でも面白そうです。ぜったい使いこなしてみせます」

夕方5時半過ぎ、編集者は雨の中を帰っていった。

その後、いつものように「丘の上の作業場」に行く。

世話人代表のKさん、同い年の盟友のUさん、Uさんの同僚で新婚のMさんの3人のオッサンがすでに作業をしていた。

オッサンたちの間で、新聞のことが話題になる。

「A新聞は文化欄、Y新聞は家庭欄が充実してますよね。でも政治・社会面は全然ダメですね」と世話人代表のKさん。

「NK新聞は、経済以外の欄が面白いですよね」と新婚のMさん。

「そうそう、とくに文化欄が面白い」と私。

「俺、NK新聞なんか読んだことねえなあ」とUさん。

「どうして新聞って、自分の得意分野以外のところが面白いんでしょうね」私は不思議だった。

「つまり新聞社というところは、主流派以外の人たちが、面白い記事を書こうと頑張っているということですよ」と、世話人代表のKさん。

「なるほど。いいことを聞きました。そう言われればそうですね」私は納得した。

考えてみれば、これは新聞社にかぎらない。どこの業界にもあてはまる。

主流派の考えることは、実につまらない。そのかわり、主流から追いやられた人たちの仕事は、実におもしろい。

そういえばさきほどお会いした編集者も、何となく非主流な感じがしたぞ。出版社のコンセプトも非主流な感じだったし。

だからウマが合ったのか。

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