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本物の仕事

6月30日(日)

昨日の日帰り一人旅の疲れが抜けない。

夜、福岡に住む高校時代の友人・コバヤシに電話をした。昨日立ち寄ったK市のお店で、「唐津焼」の話題が出て、そのことを彼に話したくなったからである。

コバヤシと連絡をとるのは、本当に久しぶりである。

私は老夫婦から聞いた唐津焼の話をした。それを聞いて、コバヤシが言う。

「どういう唐津焼がいいものなのか、じつは俺にはよくわかんないんだよ」

コバヤシらしい言い回しである。

彼がすごいのは、決して「わかった風なことを言わない」ことである。そこが、私が彼を全面的に信頼しているところである。

もともと、「美味いものを美味く食いたい」という発想から、食器である唐津焼にはまっていったのである。彼の基準は、そこにある。

「いくら作家自身が気に入った作品ができたといっても、こっちが気に入るとは限らないしなあ」

「なるほどねえ」

「それに、俺自身も、むかしと今とでは好みも変わってきたし」

「ほう」

「最初のころは、見た目がいいものを買ったりしていたんだけど、使ってみると、どうもしっくり来ないものが多くってねえ。逆に見た目は地味でも、使ってみると実にしっくり来るものがあったり」

「そういうもんかね」

「だから、見た目とか評判とかでは、なかなか判断できないものなんだ。実際に使ってみないとね。…でもこれは、焼き物に限ったことではないぜ」

「どういうこと?」

「お前のやってる仕事だって、同じだろう?」

ハッとなった。

「そうか。同じか!」

胸がすく、とはこのことである。

見た目が派手だったり、耳心地のよい仕事が、中身のある仕事とは限らない。一見地味にみえる仕事の中にこそ、本物の仕事が存在するのだ。

それは、私自身がめざしていたことではなかったか。

「おい、こんどK市に行こうぜ」と私。

「福岡からだと遠すぎるよ。それより、唐津焼を見るんだったら、本場の唐津に来いよ。窯をまわって、寿司を食って」

以前から何度も言われていることである。

「いいねえ。今年こそは行きたいねえ」

そう約束して、電話を切った。

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