« 黄門様の傑作推理! | トップページ | 重い鎧を着て、降りてくるのを待つ »

間違われた男

7月9日(火)

夕方、外部講師を招いた講演会と、内部職員による報告会をハシゴして聞きに行く。

報告会を途中退席し、建物の外を出ようとすると、「先生」と呼ぶ声がする。同じ職場に勤めている卒業生のT君だった。

「これから、僕の作った生け花を建物の玄関に飾るんです」という。

そういえば最近、T君は生け花をはじめた、と言っていた。

しばらくその作業を見ていると、T君が席を外したのと入れかわりに、こんどは奥から「生け花の先生」とおぼしき、妙齢のご婦人が出てきた。

「まあ、いまT君から聞いたんですけど、M先生でいらっしゃいますか?」

「ええ」

「いちどぜひお会いしたかったんです」

「はあ?」

「先生、○○流の生け花をおやりになるんでしょう?」

「……?」

「私もそうでございまして、ぜひいちどお目にかかりたいと…」

「ちょ、ちょっと待って下さい。私は生け花などまったくわかりません」

「いえ、でもM先生はそうとうの腕前だとうかがっておりますよ」

まったく心当たりがない。あれ?俺、生け花なんてやってたっけ?と、自分の人生をふり返ってみたが、それでもやはり思いあたるふしがない。

「違いますよ。それは違う部局のM先生ですよ。この先生は違います」戻ってきたT君が生け花の先生に言った。

「あらまあ、そうなんですか」

うちの職場には、私と同姓の同僚がもう1人いる。どうやらその人と間違えたらしい。

そのことがわかってホッとすると同時に、少し落ち込んだ。

私と同姓のもう1人のM先生は、生け花をたしなむのだ。それにひきかえ私は、まったくもって無趣味の人間である。

そしていつも私は、もう1人のM先生と間違われるのである。つくづく自分の「華のなさ」に落ち込んだ。「生け花」だけにね。

「でも、どこかでお目にかかった気がするんですよねえ」と、その生け花の先生が食い下がる。

しかし、私にはまったく記憶がない。

「思い出しました!オランダのL大学の先生が講演会にいらしたときに、私、教室にお花を生けましたの。その時にお会いしたんですわ」

はあ?ますますわからない。

なにしろ私は、オランダのL大学などとは、まったく関係がないのだ。

でも以前、うちの部局にオランダのL大学の先生が講演会に来たことは、記憶にある。

(はて、今度は誰と間違えているんだろう…?)

その講演会にかかわった同僚が誰だったかを必死に思い出し、ある仮説に行き着いた。

「ひょっとして、それは私ではなく、M山先生ではないでしょうか?」

生け花の先生は、きょとんという顔つきをしたが、すかさずT君が言った。

「そうですね。M山先生の可能性が高いですね。なにしろ体型が…」と、そこまで言って、T君は口をつぐんだ。

ああ!これで明らかになった、私はM山先生にも間違われていたのだ。

私は、別の人と間違えられることが本当に多い。

以前も、こんなことがあった。

ある職員さんが私のところに来て、「N先生すみません。私、N先生のことをM山先生だと思って、先生の書類をM山先生のボックスに入れてしまいました」と言う。

「あのう、私はN先生でもM山先生でもありませんよ」

「はっ!…すみません」

その職員さんは、いたたまれなくなって一目散にその場を去ってしまった。

いったい俺は誰なんだ?

俺は本当に、存在しているのか?

|

« 黄門様の傑作推理! | トップページ | 重い鎧を着て、降りてくるのを待つ »

職場の出来事」カテゴリの記事

コメント

No No No ー(A pinkの新曲風に)

訂正するから落ち込むのです。
ここは一つ、人違いに乗っかる「遊び」で乗り切りましょう。

以前、なんかの勧誘電話がかかって来た時の話ですが、

こぶぎ 「もしもし」

男 「こぶぎさんのお宅でしょうか?」

こぶぎ 「はい」

男 「失礼ですが、娘さんですか?」

こぶぎ 「はい」(多少トーンを上げる)

男 「お父さんいらっしゃいますか?」

こぶぎ娘 「いません」

男 「では、またお電話いたします」


あたしの声のどこが少女に聞こえるのか知りませんが、
ともあれこのようなやりとりが楽しめます。


ちなみに、今日行って来た、とてもおっかなそうな取材先(実は和やか)にて、わたくしめ、「相撲取り」と間違えられてまいりました。

投稿: 間違いだらけのこぶぎ | 2013年7月 9日 (火) 22時07分

そういえば以前、伊集院光さんが一般人に「あ、内山君だ!『まいうー』って言って!」と声をかけられ、「俺はいったい何者なんだ?」と言っていたことを、思い出しました。

投稿: onigawaragonzou | 2013年7月10日 (水) 01時14分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« 黄門様の傑作推理! | トップページ | 重い鎧を着て、降りてくるのを待つ »