長袖を着るか、燗酒を飲むか
7月26日(金)
東京から師匠が隣県においでになるというので、私も合流することにした。
仕事が終わった夜、10名ほどで、駅前のチェーン店の居酒屋で宴会である。
この県の人たちは、酒飲みが多い。美味しい地酒が多いことも、酒飲みが多い理由のひとつであると思われる。
師匠の数歳下の後輩にあたる、Kさんも来ていた。Kさんは、師匠が20代後半から30代にかけてつとめていた職場にアルバイトに来ていて、後に地元に戻ってお仕事をされた。お二人は40年来の盟友であり、私にとっては、お二人とも大先輩にあたる。
「みなさん生ビールでいいですね?」
幹事の方が聞く。
「オレ、熱燗」
Kさんだけが、熱燗を注文した。
「熱燗?何で?」師匠が不思議がる。
「だってこの居酒屋、冷房が効きすぎて、寒くってね。生ビールどころじゃないですよ」Kさんが答えた。
やはり「体感温度の不一致」だ。私には、全然寒くないのだが。
「バカだなあ」と師匠がKさんに言う。「生ビールを飲むときは、長袖を着てくるもんだよ」
師匠がそう言ったので、あらためて師匠のほうを見ると、いつの間にか師匠は長袖に着替えている。
さっきまで仕事をしていたときは半袖だったのに、いったんホテルに戻り、長袖に着替えてきたらしい。
「生ビールを飲むときは長袖を着る。これは鉄則だぞ」
なんと用意周到なことだろう。師匠は昔から、人一倍、用意周到な方なのだ。
「いいんです。熱燗で」Kさんも頑として聞かない。
それを見てまた師匠がからかう。
「その酒、『日本中どこででも売ってる酒』じゃんか」
美味しい地酒が数多くあることで有名なこの県で、「日本中どこにでも売っている酒」を飲むというのは、なんというか、ある意味屈辱的である。
「いいんです。寒いんですから」それでもKさんは燗酒にこだわった。
「オレだったら絶対飲まないよなあ」師匠も師匠で食い下がる。
Kさんをからかうことに飽きたのか、こんどは隣にいた私にこっそりと耳打ちをした。
「おい、知ってるか?」
「なんですか?」
「壇蜜って、この県の出身なんだぞ」
「え?そうなんですか?」
ここ2年以上、テレビを見ていないので、芸能情報にはとんとご無沙汰だった。
「知らなかったのか?」
「ええ」
「ダメだなあ…まだまだだなあ」
「はあ」
つねひごろからいろいろなところにアンテナを張っておけ、というのは、師匠の教えである。しかし壇蜜の情報までチェックしなければならないとは思わなかった。
そんなこんなで、2時間ほどの宴会は終了した。
「こんなに美味しい地酒があるのに、よく燗酒なんか飲めるよなあ」師匠も最後までKさんをからかう。
だがKさんも負けない。Kさんは最後に言った。
「やっぱり燗酒は白鶴にかぎる」
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