第3シーズンのカタルシス
ドラマ「古畑任三郎」の第3シーズンは、それまでの2つのシーズンにくらべると、ややパワーダウンしているように、個人的には思う。
だがその中でも印象に残っているのは、福山雅治が犯人役を演じた第8話「頭でっかちの殺人」である。
事故で車椅子生活となった化学研究員・堀井岳(福山雅治)は、かつての恋人・片桐恵(戸田菜穂)が同僚で友人の等々力(板尾創路)と婚約したことを知り、復讐を計画する。
堀井は、爆弾を仕込んだ『ロダンの考える人』像を婚約祝いと称して等々力に贈った。そのプレゼントを自宅に持って帰った等々力に、堀井は研究室から電話をかけて、等々力自身に起爆装置を入れさせ、爆殺する。しかもそこに、恋人の婚約者の恵の犯行と思わせるようなさまざまな仕掛けをほどこすのである。
やがて警察の捜査が開始される。等々力の自宅に爆弾を仕掛けた犯人は誰か?堀井の計画通り、捜査の目は次第に恵に向けられていく。
しかし古畑は、例によって堀井を疑い、執拗に捜査を進めていく。
車椅子の堀井には、等々力の自宅に行って爆弾を仕掛けることはできない。
だが、プレゼントに爆弾を仕掛け、それを等々力自身に運ばせれば、堀井にも十分に犯行が可能である。
現場検証で発見された粉々になったブロンズ像から、爆弾が仕掛けられた場所が「ロダンの考える人」像の中であったことをつきとめ、それが堀井から贈られたプレゼントだったのではないか、と推理するのである。
犯人を追いつめるシーンは、シリーズ中でも屈指の、カタルシスを感じるシーンである。
堀井は、「ロダンの考える人」像の中に爆弾が仕掛けられたという古畑の推理を認めつつも、「それと僕とをつなぐ線は何一つないじゃないか」と断言する。
「いいえ、あなたが贈ったんです」
そう言って古畑は、1枚の包み紙を取り出す。
「あなたの最大のミスは、人間の心を読めなかったことです。
世の中にはね、人から心のこもったプレゼントをもらうと、包装紙までちゃーんととっておく人がいるんですよ。
彼は、あなたからの思いがけないプレゼントに感動されたんでしょう。研究室のデスクの引き出しにちゃんとしまってありました」
そう言うと、古畑はその包み紙で、現場にあったブロンズ像と同型の「考える人」を包み始めた。包み紙に残されていた折り目は、それがブロンズ像を包んだものであることを、完全に示していた。
「あなたの指紋が、包み紙の表にも裏にもべったりついていました」
ついに観念した堀井が、つぶやく。
「まさか…そんなものを大事にとっておくなんて…」
自分が憎んでいるということは、相手も自分を憎んでいるはずだと思い込んでいた堀井。だが等々力は、堀井を心底から大切な友人だと思い続けていた。堀井は、等々力の気持ちを見誤っていたのだ。
そして、自分を見限って友人と婚約した元恋人に対しても、堀井は「僕がこんな身体になってから、あいつはすっかり変わってしまった…」と嘆く。
「果たしてそうでしょうか…。変わったのはあなたの方じゃなかったのですか」
事故がきっかけで心を閉ざしてしまったのは、堀井の方だったのだ。
この古畑のセリフには、ハッとさせられる。
推理ドラマ以上の醍醐味を、味わう瞬間である。
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