巻き込まれ型エンタテインメント
7月19日(金)
考えてみたら、失礼な話である。
私が日常生活で取り交わした会話を、ここで事細かに紹介する、というのは、ひょっとして関係者にたいへんご迷惑をかけているのではないか、と、今ごろになってビビリだした。
ある意味、フェイスブックやツイッターよりも、プライベートな部分をさらけ出しているようなものではないか。
私は深く反省した。…といっても、この文体は変えるつもりはない。
このブログはあくまでもファンタジーである。ここに登場する人々も、すべて架空の人物なので、すべて他人事だと思って読んでもらいたい。
…とまあ、反省はこれくらいにして。
「貧乏暇なし」とは、よく言ったものである。
もし私が弁護士になったとしたら、たぶんまったく金にならない事件ばかりを担当する弁護士になっただろうな。
もし私が医者になったとしたら、黒澤明の「酔いどれ天使」で志村喬が演じたような医者になっただろう。
妻には「家が建つような売れる本を書け」と言われるが、どうもそういう世界とは無縁のようなのだ。
先月末、一つの大仕事がようやく自分の手元を離れたかと思ったら、自分とはハタケ違いの雑誌から、7月10日までに原稿を出せとのいう最終通告が来た。このことは、前に書いた。
まるで、こちらが一仕事を終えたのを見はからっているようだ。
7月10日のギリギリに原稿を送って、ホッとしたのもつかの間、その翌日、なんと今度は別の雑誌から、
「原稿はどうなってますでしょうか」
というメールが来た。絶対、「トゥルーマンショー」みたいな台本があるんじゃないか?
依頼を受けてからもう3年ほど、あとまわしにしてきた原稿である。さすがにこれも、出さないと怒られてしまう。
「夏休みが終わるまでには何とかします」と返事を書いたが、夏休みに締め切りの原稿が、他にもいくつもあるので、取りかかれるかはわからない。
そして昨日は、東京の出版社の編集者が来て、大仕事の依頼をしていった。
さらに今日は、3件の催促が来た。
ひとつは、これまたある出版社から、これまた数年間のらりくらりとかわしてきた大仕事について、
「一つの大仕事を終えてホッとされていると思いますが、もうひとつの大仕事の方もいい加減、早く出してください」
という催促である。うーむ。容赦のない人だ。
二つめは、「絶対に8月末までに出してください」という、とある雑誌の編集担当者からの念押しのメール。
三つめも、「忘れずに、原稿を来年1月末までに出してください」という、また別の出版社からのメール。
…ここまでくると、もはや頭がおかしくなりそうである。
だが、別に「売れっ子」というわけではない。「売れっ子」とは、名前が売れていたり、儲かっていたりする人のことでしょう?
こっちは、書けば書くほど赤字になるし、いっこうに無名のままである。
たんに、いろいろな仕事に巻き込まれているだけに過ぎないのだ。
…という愚痴を書いてみて、「前の職場」の同僚だったOQさんのことを思い出した。
OQさんも、何だか知らないが、年中原稿に追われていて、毎晩遅くまで職場に残って仕事をしていた。
たまに、Kさんだとかこぶぎさんだとか私だとかに、いま引き受けてしまった仕事が、いかに大変か、いかに巻き込まれてしまったか、を、おもしろ可笑しく話してくれるのだった。OQさん本人にとっても、その愚痴ともネタともつかない話をすることで、ストレスを解消していたのだろう。
私たちはそれを、笑いながら聞いていた。冷静に考えれば、それだけの仕事を抱えること自体、すごいことなのだが、OQさんの話には、それを感じさせない、粋な面白さがあった。
自分がいろいろな仕事に巻き込まれ、不運な境遇にあることを、ネタとして、おもしろ可笑しく話す。
言ってみれば、「巻き込まれ型エンタテインメント」である。
自分を客観視していたからこそ、できたことなのだろう。
いまの私の境遇は、あのころのOQさんと同じではないか、と、時折思うことがある。
だが、OQさんほどに、それをエンタテインメントにできる力が、私にはない。
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コメント
えー。ただ今、ご紹介にあずかりました「原稿ため込み党」青年部のこぶぎと申します。
さて、「じぇじぇじぇ」の聖地を始めとして、この1か月の間、あちこち取材して回ってきた「電波少年的サイコロの旅」も、いよいよ今日で最後となりました。
しかし、選挙と原稿の催促は、結果が出るまで分からないと申します。ここで気を緩めずに、あと一歩、否、あと一枚との気概をもって、
この国のために、地域のために、そして子供達の未来のために、「原稿ため込み党」公認候補の「おにがわらごんぞう」君へ、皆様の絶大なるご支援を賜りたく存じます。
おにがわら候補の躍進によって、この地域の思いを、しっかりと東京へ、神保町へと送り届ける。このことを皆様とお約束しつつ、最後に、おにがわら候補の健闘を祈念いたしまして、恒例の「ガンバッタゾーコール」を行いたいと思います。
会場の皆様もご起立の上、ご唱和下さい。
(全員起立し、右手を構える)
まさかの取材NGで、当初の研究計画が狂っちゃったけど、ガンバッタゾー!
(観客)ガンバッタゾー!!
今日なんか、SPに目をつけられっぱなしだったけど、ガンバッタゾー!
(観客)ガンバッタゾー!!
原稿依頼なんか来なくても、こちらはこちらで、ガンバッテルンダゾー!!
(観客)モウ、ヘロヘロナンダゾー!!
これを持ちまして、「鬼瓦君に締切を守らせる総決起大会」を終わります。どちら様も、お気をつけてお帰り下さい。
(拍手)
投稿: 演説会こぶぎ | 2013年7月20日 (土) 01時07分
みなさま、高いところから失礼いたします。
「原稿ため込み党」公認候補の「おにがわらごんぞう」でございます。
ただいまこの、「鬼瓦君のハートに火をつける総決起大会」…じゃなかった、「鬼瓦君に締切を守らせる総決起大会」におきまして、青年部のこぶぎ様の心あたたまるご演説と、皆様からのあたたかいエールをいただきまして、身の引き締まる思いでございます。かねてみなさまとお約束いたしました「もう原稿はため込まない!原稿改正反対!原稿再稼働反対!早期に脱原稿!」という公約を、今日あらためて、みなさま方の前でお誓いするものでございます。
わが党の青年部のこぶぎさんが、2着しかない背広をこまめにクリーニングに出しつつ、ときにはSPに不審人物とにらまれ、またときには演説会で相撲取りに間違えられたりしながら、この1カ月間、各地を丹念に取材されました。
このこぶぎさんの熱意を、無駄にしたくありません!こぶぎさんのためにも、みなさまどうか、投票用紙には「原稿ため込み党」もしくは、「おにがわらごんぞう」とお書きください!
「もう原稿はため込まない!原稿改正反対!原稿再稼働反対!早期に脱原稿!」の「おにがわらごんぞう」、「おにがわらごんぞう」を、どうぞよろしくお願い申し上げます。
投稿: onigawaragonzou | 2013年7月20日 (土) 01時57分
(帰り道で)
A いやー、おにがわらさん立派な人だったな。学歴も経歴もすばらしいし、体格だって、引退後にワイシャツ姿で国技館の会場警備をしている元力士みたいだったし。
B おおよそ原稿をうっちゃっておく人には見えないけどねえ(相撲取りだけに)。
A それに、奥さんからの涙の訴えも感動的だった。
B 「鬼瓦の家内でございます」でしょ。まさに鬼嫁の目にも涙じゃない?
A うまいこというね。それじゃ、今回は原稿ため込み党で決まりだな。
B ちょっと待って。キャッチフレーズは耳心地がいいけど、言わなかったことも多いわ。
A そうだったかなあ?
B たとえば、1本目、2本目の原稿は矢継ぎ早に出すけど、3本目からはブログに書き散らかした駄文を適当に混ぜ込んで原稿にしていく「オニのミックス」戦略とか。
A ずいぶん景気のいい話だけどね。
B 例の「環おにがわら原稿連携協定(TOP)」構想だって、あの人付き合いの悪さからして、パートナーシップを作るどころか、かえって編集者同士につながりができて、包囲網をひかれるだけね。
A 「TOP」なんて、BIGBANG(ビッグバン)のラッパーじゃないんだから。
B それに、一言も言わないけど、あの人の真の目的は、印税を10%に上げることだからね。騙されちゃダメよ。
A (ぽん)なるほど。それで土下座している旦那を前にして、奥さんが「どうか主人を、原稿料で家が建てられるくらいの男にしてやって下さい」と何度も繰り返していた訳か。
B 最後にガンバローコールをしたあの人なんか、印税どころか、書いた本が何冊か現物支給されて終わり、ということも多々あったという噂よ。不良在庫の本を積み上げたところで、どうやって家が建てられますかってんだ。
A それは自業自得じゃないかな。所詮、あの人だって、原稿ため込み派なんだから。
投稿: 演説会こぶぎ | 2013年7月20日 (土) 09時11分
続いてのニュースです。
いよいよ明日の投票日を前に、各党の熾烈な選挙戦がくり広げられています。
「原稿改正反対!原稿再稼働反対!早期に脱原稿!」を公約に掲げている原稿ため込み党の「おにがわらごんぞう」候補は、地元の駅前で最後の演説をし、これらの公約に加えて、「原稿の不良債権を、最後の一枚に至るまで、今年中に処理する」という公約を新たに掲げ、有権者を驚かせました。
これに対し他党からは、「原稿の不良債権を今年中に処理することは無理だ」「印税を一律に10%に引き上げる政策についてひと言も触れないのは、争点隠しだ」と、批判の声があがっています。
有権者からも、「公約は口だけ。本当に原稿の不良債権を最後の一枚に至るまで今年中に処理できるのか疑問」、「印税の分が本の価格に上乗せされて、これ以上本が値上がりすると、ますます本を買わなくなる」など、懸念の声が広がっています。
投稿: onigawaragonzou | 2013年7月20日 (土) 10時25分
(ニュース速報)
原稿ため込み党は20日に緊急記者会見を開き、ディスプレイの追加配置を公約に盛り込むと発表した。執筆の効率化を図るために、ワープロ機能を強化する目的と見られる【連同通信=20日】。
投稿: 演説会こぶぎ | 2013年7月20日 (土) 11時17分
A おいおい、うちの党はどうなってんだまったく!
B ディスプレイの追加配置だって?印税の引き上げといい、「環おにがわら原稿連携協定(TOP)」構想といい、これじゃあ与党の「売れっ子党」と公約が変わらなくなったじゃないか。
A ディスプレイを追加配置されたりなんかしたら、目がチカチカして、我々の健康被害は広がるばかりだぞ。
B 確かに健康への不安は大きいな。事故も多いだろうし。
A そうだ、思い出したぞ!たしか青年部のこぶぎさんの部屋には、最近、大型のディスプレイが追加配置されたんだった!
B 何だって?じゃあ、うちの党では、前々からディスプレイの追加配置を公約にするつもりだったんだな!
A この分だと、本来の公約である「原稿改正反対!原稿再稼働反対!早期に脱原稿!」も、どこまで本気で守ろうとしているかわからないな。
B とくに「早期に脱原稿!」なんて、ハナっから守る気がないんじゃないかな?
A どうして?
B だって、せっかくの週末の昼下がりを、こんなコメントの応酬に明け暮れているんだぜ。そんな時間があったら、原稿を早く書けっての!
投稿: onigawaragonzou | 2013年7月20日 (土) 12時19分
(ぴろぴろりーん)
ここで新たな当選確実が出ました。
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比例区 鬼瓦権造(ため込み)新 当選確実です。
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では、政治部の田中記者に話を聞きます。
田中さん、事前の情勢予測では全くノーマークだった、原稿ため込み党から当確が出ました。45年前に結党して以来、初の議席獲得と言うことになりますね。
はい。鬼瓦さんは、選挙前は全く無名の新人でしたが、夫人と一緒に「なきばえ作戦」と呼ばれる土下座パフォーマンスを全国各地で行って、一躍注目を浴びるようになりました。
選挙戦に入ってからは大喜利感覚で公約を乱発したものの、その内容の紛らわしさから自分の支持政党の政策と勘違いする有権者が続出した上に、選挙戦最終日のコメント欄に早期脱原稿路線からの方針転換を示唆する発言を書き込んだことで、出版業界団体を中心に大きな危機感が生まれ、組織の引き締めにつながりました。
このような経緯を経て、「せっかく原稿不良債権一掃を本人自ら、高らかに宣言しちゃっているのだから、ここはしっかり言質として取るべき」といった意見や、「「消えた年金」問題に続いて、「消えた原稿」問題まで引き起こしてならない」といった意見を背景に、大きな世論のうねりが選挙戦終盤になって巻き起こったことが、今回の勝因となりました。
ここで、鬼瓦候補の選挙事務所と中継がつながったようです。社会部の佐藤記者に伝えてもらいます。佐藤さん。
はい、佐藤です。こちらは葛飾区柴又にあります鬼瓦候補の選挙事務所です。ごらんのように、追加配備のディスプレイ12台がところ狭しと並べられておりまして、まるで電器量販店のような光景になっています。
佐藤さん、鬼瓦さんは選挙事務所でバンザイをしないそうですが、本当ですか?
はい。この選挙事務所には、当選確実の知らせを聞いて多くの出版関係者が原稿取りのために続々と詰めかけておりまして、先ほど事務所関係者の方に話を聞いたところでは、鬼瓦さんは選挙事務所に姿を見せることはせず、原稿執筆に集中したいという名目で、この夏休みにも国外に高飛びする予定だそうです。
もっとも、「TOP(環おにがわら原稿連携協定)」では、原稿遅延による損害賠償訴訟にはグローバル・スタンダードが適用されることになっていますので、どの国に逃れようと損害賠償請求から逃げおおせることは不可能であり、訴追された場合も「聖域なき自由競争」という大原則から、議員の不逮捕特権が認められないことになりそうです。
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ここまでお読み頂いたよい子の皆さん、貴重な一票ですから、明日は必ず投票に行きましょうね。もちろん、「原稿ため込み党」とか書いてはいけませんよ。
投稿: 演説会こぶぎ | 2013年7月20日 (土) 16時25分