電撃訪問
7月12日(金)
夕方、仕事部屋をノックする音がした。
「どーもー」
「こ、こぶぎさん!」
片道50㎞離れた「前の職場」の同僚だった、こぶぎさんである。
「どうしてここへ?」
「ブログに、晩ご飯を一緒に食べる人がいない、と書いてあったので来ました」
まあそれは半分冗談で、こちらに所用があってきたついでに、寄ってくれたらしい。
それにしても今週は、いろいろな意味で「律儀な友情」を感じた1週間である。
職場の近くの洋食屋さんに行くことにした。お喋り好きのシェフのオヤジが1人で切り盛りしている、小さな洋食屋さんである。こぶぎさんも、このブログを読んで一度行ってみたいと思っていたらしい。
「金曜日だから混んでるかも知れませんね」
行ってみると、客は誰もいない。シェフのオヤジさんは、暑かったのか、ランニングシャツ1枚姿で、電話でなにやら話している。
「やってますか?」
「どうぞ、いらっしゃいませ…じゃあ、お客さん来たから」
シェフのオヤジは電話を切り、慌ててコック服を着た。
「金曜日はいつもこうなんですよ。みんな町の方に飲みに行ってしまうものだから、お客さんが誰も来なくってねえ」
金曜日だけじゃなくて、いつもそうではないか?と心の中でツッコむ。
「イメージしていたのと違うね」こぶぎさんが小声で私に言う。「ずいぶん庶民的だねえ」
「そうでしょう。でも味は保証します」と私。
食事をしながら、四方山話をする。
職場の話、韓国の話、朝の連ドラ「あまちゃん」の話など。
印象に残った話をいくつか。
「この前、兵庫県の宝塚に行ってきてねえ。初めて見たよ。『ベルばら』」
「どうでした?」
「いやあ、よかった。宝塚にハマる人の気持ちが、よくわかった」
「よくチケットがとれましたね」
「当日券を買ったんだ。朝8時半から並んでね」
話は次に、「取材」で東北地方をまわったときの話。
「行った先の図書館で、地元の新聞を調べることにしてね。そのついでに、震災で大きな被害を受けた県の、2011年3月11日の地元の新聞を見てみたんだ」
「ほう」
「そうしたら、当たり前なんだけど、そこにはふつうの日常、というか、ふつうの記事が並んでいるわけ」
「なるほど。地震が起こる前ですからね」
「その日の震災で、状況は一変してしまったんだけど、その前まで、ふつうの日常が存在していた、という当たり前のことにあらためて気づいたら、なんか考えさせられちゃってねえ」
その話を聞いて、思い出した。
「黒木和雄、という映画監督の作品に、『TOMORROW 明日』というのがあるんですが、その映画は、長崎に原爆が落とされる前日の日常を描いた作品なんです。何の変哲もない日常を描いているんですけど、このあと原爆が落とされるのか、と思うと、何か特別な1日のように思えてしまうんですよね」
続いて歌の話。
「昨年の12月だったか、震災で被災した隣県を車で走っているとき、地元のラジオから流れていた曲が、とってもよくってねえ。思わずジーンときたんだよ」
「何ていう曲です?」
「何だっけなあ。猪苗代湖ズのメンバーに金髪の人がいて、その人がユニットを組んでいて、『ツーショット』とか何とか言ったかなあ。とにかくその歌が、とてもいいんだ」
「へえ、あとで探してみます」
…というわけで、探してみたのがこの曲。
こぶぎさん。この曲で合ってますよね?
「あのう…」シェフのオヤジが言う。「そろそろ店じまいしたいんで…」
気がつくと9時半を過ぎていた。
結局、客は私たち二人だけだった。
「ほんと、みんなどこへ行っちゃったんでしょうねえ。人っ子ひとりいやしない」例によってシェフが愚痴りだした。
「また来ます」そう言って店を出た。
「あのシェフ、ブログで読んだ印象よりも、あまり喋らないよねえ」とこぶぎさん。「最初はランニング姿だったし」
「きっと、女性客がいなかったからでしょう。女性客がいると、もっと饒舌になるんだと思いますよ」
「なるほど。わかりやすい」
こぶぎさんは、自分の車に乗り込んだ。
「晩ご飯が食べたくなったら、いつでもうちの職場にどうぞ。毎日7時半くらいに、何人かで夕食に行っているので」
そう言って、こぶぎさんは50㎞離れた地元に帰っていった。
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コメント
曲名合ってます。
で、映画「選挙2」見て来ましたが、来週の参院選投票日の前に見るといいですよ。映画を見終わって映画館を出て、街に戻った時の、映画の中の光景と、目前の風景との相似感が半端ないですから。
ちなみに、僕が行った映画館は、投票所入場券の提示で料金が1000円になりますのでお忘れなく。
あと「きっと、うまくいく」も比較的さらっとしたインド映画なので、未見であればぜひ。
約3時間だけど。
投稿: こぶぎ | 2013年7月15日 (月) 23時05分
連休中、無為に過ごしていたんなら、隣県の映画館に行って「選挙2」を見ればよかったと後悔しました。来週末なら、まだ間に合いますよね。
妻にも強く勧められた「選挙2」。なにしろ、「選挙」が面白かったですからね。いま、ギャオで無料放送中なので、ぜひ。この映画がツボにはまった人とは、お友達になれます。
投稿: onigawaragonzou | 2013年7月15日 (月) 23時58分