チャーハンの味
7月23日(火)
子どもの頃に食べたものの味は、生涯忘れないものである。
小学校の頃だったか、私は、ある中華料理屋さんで食べるチャーハンが、とても好きだった。
それがどこの中華料理屋さんだったか、覚えていない。
住んでいた家の近くの中華料理屋さんだったのか、あるいは、母の実家の近くの中華料理屋さんだったか。
どちらにせよ、ごくふつうの、街の中華料理屋さんだった。
思春期を迎え、さらに大人になって、その中華料理屋さんのチャーハンを食べることはなくなったが、大人になったあるとき、ふとその味のことを思い出して、
(子どもの頃に食べたチャーハンを、もう一度食べたい)
と思うようになった。といっても、お店に関する記憶もないし、ひょっとしてお店じたいがもうなくなっている可能性も高いので、まったく同じチャーハンを食べることはあきらめるしかなかったが、せめて同じ味のチャーハンを食べたい、と思ったのである。
そこから私は、「子どもの頃に食べたチャーハンと同じ味のチャーハン」を探す旅に出ることになる。
なんのことはない。私は中華料理屋さんに入るたびに、その店のチャーハンを注文することにしたのである。
しかし、どの店に入っても、子どもの頃に食べたチャーハンと同じ味のチャーハンに出会うことはなかった。
どの店も、ヘンに美味いのである。というか、上品な味なのである。
子どもの頃に食べたチャーハンは、それほど上品な味ではなかったのだ。
1990年代の一時期、中華料理の一流シェフが、美味しいチャーハンの作り方みたいなことをさかんにテレビで披露していたことがあり、おそらくそれ以降、全国の中華料理屋さんのチャーハンの味がレベルアップしてしまったのではないだろうか。
探しても探しても、私の求めているチャーハンの味に出会えない。
ところが、である。
先日、たまたま入ったお店で頼んだチャーハンを食べて、驚いた。
(こ、これだ…)
今まで食べたチャーハンの中で、「子どもの頃に食べたチャーハンの味」に、最も近い味である!
私は噛みしめるように食べて、何度もその味を確かめようとした。
だが問題がひとつあった。
その店は、長崎ちゃんぽんの専門店で、チャーハンは、あくまでちゃんぽんとセットで注文しなければいけないのである。
セットの「半チャーハン」を注文すると、小さいお椀に少しだけ盛られたチャーハンが出てくるのだ。
味を確認しているうちに、あっという間になくなってしまう。
(私が食べたチャーハンは、本当に子どもの頃の味がしたのだろうか?)
仕方がないので、何度かその店に通って、味を確認することにした。
本当は単品でチャーハンを注文したいのだが、そのお店の決まりで、ちゃんぽんとセットで注文しなければならない。そのつど、ちゃんぽんを食べなければならない。
それに、もうひとつ問題が。
ふつうチャーハンって、お皿の上に、丸くて大きなお玉をひっくり返したような形で盛られているでしょう?
しかしその店では、ご飯茶碗みたいな小さなお椀に、無造作にチャーハンが入っている。
しかも、レンゲではなく、スプーンが出される。
ちっともチャーハンらしくないのだ。
ちゃんぽんがメインの店だから、チャーハンがぞんざいに扱われているのは仕方がないのかもしれない。
それでも何度か食べてみると、たしかに、私が今まで食べたチャーハンの中で、「子どもの頃に食べたチャーハンの味」に最も近いことを確信した。
ようやく見つけたぞ!これが私の探し求めていた、チャーハンの味だ!
だがそのつど、一緒にちゃんぽんを食べなければならないのが、そうとうキツイ。嫌いではないのだが。
ああ、この店で、チャーハンを腹一杯食べたい!
チャーハン、単品で注文できませんかねえ。
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