抱腹絶倒、拍手喝采!その2
8月13日(火)
映画「選挙2」は、ドキュメンタリー映画の奇才、想田和弘監督の最新作である。
想田監督は、自身の映画を「観察映画」と称していて、ナレーションも音楽も字幕もつけず、事実だけを淡々と映しだすのが特徴である。
2007年に公開された映画「選挙」を見たとき、こんな面白い映画があったのか!と驚愕した。これほど面白い映画に出会ったことは、これまでになかった。
「選挙」の内容は、次の通りである。
2005年、いわゆる「郵政選挙」で「小泉旋風」が吹き荒れていたころ、川崎市で市議会議員の補欠選挙が行われることになった。切手・コイン商を営んでいた当時40歳の山内和彦さんは、ふとしたことから自民党の公認候補となり、川崎市にそれまで縁がなかったにもかかわらず、「落下傘候補」として出馬することになった。
ところがこの山内和彦さんこと「山さん」は、政治に関してはずぶの素人であった。そこで自民党の国会議員や県会議員、さらには党員たちが、山さんに自民党流の選挙運動を徹底的に「教育」する。いわゆるドブ板選挙を教え込むのである。慣れない山さんは、とりあえず言われたとおりにドブ板選挙を展開し、見事当選を果たす。
この様子をあますところなく映しだしたのが、映画「選挙」である。
日本の奇妙な選挙運動の実態や、それを生み出す社会的な地盤、さらにはゆがんだ政治風土が、この映画を通じて明らかにされたのである。
さてその後、山さんは一年あまりで任期満了となり、いろいろあって自民党の公認を取り消され、次の選挙に立つことなく、「主夫」としての生活を送ることになった。
東日本大震災の直後の2011年4月、統一地方選挙が行われることになった。
「主夫」をしていた山さんは、突然、再び川崎市議会議員に立候補することを思い立つ。
震災にともなう原発事故のあと、政治家が誰一人、原発についての政策を語らないことに強い怒りをおぼえた山さんは、完全無所属で、「脱原発」を掲げて立候補することを決意したのである。
前回のドブ板選挙のバカバカしさを痛感した山さんは、それとは正反対の選挙運動を展開する。ま、正確には、選挙運動といえるほどのものではないのだが。
その様子をあますところなく映しだしたのが、映画「選挙2」である。
これも、めちゃくちゃ面白かった!抱腹絶倒、拍手喝采!である。
絶対に見るべき映画である。
初めて見る人には、まず「選挙」を見てから、「選挙2」を見ることを、強くおすすめする。
見ていない人に内容を語っても仕方がないので、この映画を見て感じた点をいくつか書く。
この映画は、一見、淡々と映しだした映像をつなぎ合わせただけのように見えるが、実はそうではない。映像の編集が、じつに巧みである。
一見、無駄に思えるような会話やセリフ、短い映像が、じつは後々の伏線になっているのである。だから一つとっして、無駄なカットがない。すべてが、意味のある映像である。
そこに気づいたとき、私たちは目の前で起こる出来事に抱腹絶倒できるのだ!
この見せ方は、見事というほかない。「ドキュメンタリーの神様」が降りてきた、とは、こういうことをいうのであろう。
また、大手政党の候補者のほとんどが抱えている「選挙運動に対する後ろめたさ」が、この映画によってさらけ出されている。候補者たちの生々しく、切なく、ぶざまな姿を見るだけでも、この映画は見る価値がある。
こうした映像を引き出す想田監督は、かなり「人が悪い」のではないか、と、思わず笑ってしまった。ひょっとして、ドキュメンタリー映画の監督に最も必要な資質は、「人が悪い」ことなのかもしれない。マイケル・ムーアしかりである。
あと個人的に面白かったのは、候補者たちが演説で使っている「日本語」である。
ほとんどの候補者が、
「お訴えをさせていただきます」
という「日本語」を使っていた。
ふつうならば、
「訴えます」
と言えばすむところを、政治家はなぜかみんな、
「お訴えをさせていただきます」
と言うのである。
これは、「訴え」のあとにわざわざ目的語の助詞「を」をつけて
「お訴えをする」
とし、さらに過度な謙譲表現である
「させていただきます」
をくっつけて、
「お訴えをさせていただきます」
という奇妙奇天烈な「日本語」を生み出すのである。
昨日読んだばかりの、内館牧子『カネを積まれても使いたくない日本語』(朝日新書)の中で、政治家が多用する醜悪な日本語が数多く紹介されているが、
「お訴えをさせていただきます」
もまさにその一つとして、紹介されている。
この映画に出てくる候補者たちが、あまりにセオリー通りにこの言葉を使っているので、爆笑するやら、情けなくなるやら。
ただ、山さんは、こういう政治家言葉は使わない。
街頭演説に望んだ山さんは、誰よりもふつうの言葉、自分の言葉で、道行く人々に自分の考えを訴えかける。
空虚で、まるで「思考停止」しているがごとく「テンプレ通り」のことしか言わない政治家とは、対照的である。
「選挙」「選挙2」を見た人なら誰しも、「無類のお人好しで、鈍くさくって、脇が甘くて、へこたれない」山さんの、ファンになるだろう。およそ「よくいる政治家」とは真逆のタイプだからである。
私も山さんのファンの一人である。
だが驚くべきことに、その山さんが、ふつうの言葉、自分の言葉で、自分の考えを訴えかけていても、道行く人は、誰一人、その言葉にすら耳を傾けようとしないのだ。
そこで、この映画が終わる。
「思考停止した政治家」と、「無関心な私たち」。
抱腹絶倒した果てに、最後に見た光景は、それだった。
もう一度言う。
絶対に見るべき映画である。
この映画を見ずして、私たちを取り巻く社会の本当の姿を理解することはできないであろう。
(わが地元では、8月24日(土)から劇場で公開されます!)
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コメント
暑いですねえ。
さて、コメント欄も夏休み音楽特集で行きますが、映画「選挙2」の記事をネットでいろいろ探していくうちに、なぜか辿り着いたのがこれ。
制服向上委員会 「ダッ!ダッ!脱・原発の歌」
http://www.youtube.com/watch?v=ly_i8f-j0xU
さすが、何かのラジオ番組で「アイドルの皮を被った圧力団体」と形容されていただけのことはありますな。
最近、例の「サイコロの旅」的な旅の続きを、巡礼のごとく今度は逆打ちで回っているんですが、先日とある県にある、美術館の隣の動物園、じゃなかった図書館で、ふと見ると、脇道の両側に捜査線みたいな立ち入り禁止の黄色いテープがずっと引いてある。
芝の養生でもしているかと注意書きを見ると、放射線量が高く危険だとのこと。2年半も経って、一体どうなってんだ。こんな普通の街中で。
ということでもう1曲。
さいたまんぞう 「原発・アウト!」
http://www.youtube.com/watch?v=XpxQcpxqssc
さいたまんぞうの「なぜか埼玉」は、僕のカラオケ定番曲ですが、手拍子の似合う反原発ソングというのも、らしくていいのでは。
「山さん」と相前後して、「まんさん」も野球の審判の扮装で、立ち上がっていたわけです。
ちなみに、図書館の隣の美術館の企画展が大当たりしているようで、あおりを食らって図書館側の駐車場も満車になっておりますので、期間中に行かれるよい子の皆さんはご注意下さいね。
それから、「美術館の隣の図書館」のくだりは、もちろん韓国映画「美術館の隣の動物園」のもじりですよ。
http://www.youtube.com/watch?v=JKBYQKhNM3g
投稿: 美術館の隣のこぶぎ | 2013年8月15日 (木) 15時24分
「美術館の隣の動物園」、知ってますよ。ちゃんと見たことはないのですが、韓国留学中にテレビで放映していました。
さいたまんぞうこと「まんさん」、懐かしいなあ。
「ダッ!ダッ!脱原発」は、歌詞が痛快ですね。
脱原発ソングのアンソロジーCDとか、発売してくれないかなあ。
投稿: onigawaragonzou | 2013年8月20日 (火) 01時05分