8月20日(火)
この稼業、夏のこの時期はヒマだと思うでしょう?
さにあらず。本業以外の、原稿の締め切り、というのが、この時期に設定されることが多い。
理由は、「この時期にみんなヒマだろうから、ヒマな時期に原稿を書いてもらおう」という、先方(債権者)の思惑が強くはたらいているからである。
しかし、同じことを考える債権者が多いので、結局この時期に、原稿の締め切りが集中することになる。
原稿の締め切りに苦しむ同僚には、
「終わらない原稿はない」
といって励ますのだが、これは同時に自分に対する励ましでもある。
今日、原稿の締め切りに苦しむ同僚が、ようやく原稿を出してホッとしたという。
「言った通りでしょう?『終わらない原稿はない』って」
「ええ。でも、終わったというか…流した、という感じです」
「流した?」
「そう、ウンチみたいに」
「ウンチ?」
言い得て妙である。たしかに、自分の書いた文章は、排泄物に等しい。とくに本業に関する自分の文章なんて、二度と見たくないもの。
文章を書くとか、原稿を書くってのは、排泄行為に等しいくらい、恥ずかしい行為なんだな。
このブログだってそうである。つまり読者は、私の排泄行為を見ている、ということなのだ。
だから、気を許した人にだけ、見てほしいというのが、こちらの希望なのである。できれば、気を許していない人には読んでほしくない。
…もっとも、排泄行為そのものは、気の許した人にも見せたくないが。
恥ずかしいことといえば、今日はこんなこともあった。
ちょっと話が長くなるのだが。
いま履いているズボンは、ポケットに財布を入れるとかなり不格好になるタイプのものなので、ポケットに財布を入れずに、肩からかけるショルダーポーチみたいなものに入れて、持ち歩くことにしている。
これがなかなか慣れなくて、うっかりショルダーポーチを仕事部屋に置いたまま外に出たりすることが多い。
さて午後、構内のコンビニに飲み物を買いに行こうと仕事部屋を出たが、出たあと、ショルダーポーチを忘れていることに気づく。
(いけね。ショルダーポーチを忘れてた)
仕事部屋に戻り、ショルダーポーチを肩にかけて、再び構内のコンビニに向かった。
コンビニに入ろうとすると、後ろからゲラゲラと笑い声がする。
(誰だ?俺を笑っているのは。どうせまた俺の悪口を言っているんだろう)
と思って振り返ってみると、4年生のSHさん、SYさん、NYさんの3人である。1年生の頃からよく知っている3人。このところ、面接カードの添削をしている。
彼女たちは、私を見ると、いつもなぜかゲラゲラと笑うのだ。きっと悪口を言っているに違いない。
気にせずコンビニの中に入り、飲料水のペットボトルを1本とって、レジに並ぼうとすると、その3人がコンビニに入ってきた。
「先生、暑いですねえ」とNYさん。
「暑いねえ」
「アイス的なものが食べたいですねえ」
アイス的なものって何だ?アイスとは違うのか?
そのときに気がついた。ははあ~ん。これは、アイスを奢れ、ということだな、と。
「よし、いいよ。ここで会ったが百年目だ。3人にアイスを奢りますから、好きなものを一つずつ選びなさい」
「先生、そんなつもりで言ったんじゃありません」
「いや、いいんだ。奢ると言ったら奢るんだ」
こっちも、引っ込みがつかなくなった。
「じゃあ、…ハーゲンダッツでもいいんですか?」と、調子に乗るNYさん。
ハーゲンダッツ?…って、高いアイスだろう?一瞬、躊躇したが、
「ハーゲンダッツでも何でもかまわない。好きなものを選びなさい」
「本当にそんなつもりで言ったんじゃないんです」
「こっちだって、一度言ったことを引っ込めるわけにはいかない。ここは私の顔を立てて、遠慮なく好きなアイスを選びなさい」
気分は、大盤振る舞いをするときの「寅さん」である。
「ありがとうございます」3人はアイスを選び、レジに並んだ。
私は意気揚々と、レジの店員さんに、
「全部一緒に会計してください」
と言い、ショルダーポーチを開けてみて、顔面蒼白になった。
財布が…入ってない!
…そういえば、さっき仕事部屋で、ショルダーポーチから財布を取り出して、机の上に置いたのだ。それを、ショルダーポーチに戻すのを忘れたまま、出てきたんだった!
「あのぅ…悪いんだけど、お金貸してくれない?」私はSYさんに言った。
この時ほど恥ずかしい思いをした瞬間はない。「奢ってあげるから、大船に乗ったつもりで好きなアイスを選びなさい」と言ったばかりである。その私が、まさか財布を持っていなかったとは!
3人はゲラゲラと笑った。
「まるでサザエさんですよ」
まったくだ。これでは、
「買い物しようと町まで出かけたが財布を忘れて愉快なサザエさん」
ではないか!
「逆に、うちらがいなかったら、どうするつもりだったんですか?」と、レジでお金を払ったSYさんが言った。
たしかにそうだ。もしこの場に私一人だったら、レジでお金を払おうとした段階で財布がないことに気づき、手に持っていた飲料水のペットボトルを、
「やっぱりいいです」
とか何とか言いながら戻して、何も買わずに帰るところだったのだ!
この場合、「救いの神」が降りたのは、いったいどちらなのか?
たまたまコンビニの前で私に会い、アイスを奢ってもらうことになった3人の学生のほうなのか?
それとも、たまたまコンビニの前で3人の学生に会い、お金を借りることができた私のほうなのか?
…いや、どちらでもよい。
意気揚々と奢るつもりが財布を忘れて、結局は学生からお金を借りるという恥ずかしい事態を招いたことだけは、事実なのである。
NYさんが言う。
「この話、ブログ的なところに書くんでしょう?」
ブログ的なところ?
NYさんがこのブログの存在を知っているのかどうかは定かではないが、そう言われたら書かざるを得ない。
もちろん、SYさんから借りた479円は、すぐに返しました。
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