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ショウ マスト ゴー オン

三谷幸喜の若い頃の作品に「ショウ マスト ゴー オン 幕を下ろすな」という芝居がある。

これは、ある劇団の公演の舞台袖で起こるさまざまな騒動やハプニングを描いた傑作喜劇である。

副題が「幕を下ろすな」とあるように、いちどはじまってしまった芝居は、どんな事情があろうとも、続けなければならない。だが実際には、舞台上でさまざまなハプニングが起こる。そしてそのハプニングを、舞台裏の人たちが懸命に回避しようとする。その葛藤の中に、喜劇と感動が生まれるわけである。

いちど幕が上がってしまったら、途中で幕を下ろすことはできない。ノンストップなのである。舞台監督は、公演を止めないことだけに、命をかけるのである。

たとえば、こんな場面がある。

主演と演出を兼ねている劇団の座長が、本番の舞台上で、突然台本にないセリフを言い出す。

当然、そのセリフに見合ったセットを組んでいるわけでも、小道具を用意しているわけでもない。しかし座長は、この劇団における絶対権力者である。座長の機嫌を損ねることはできない。このセリフを舞台袖で聞いていたスタッフたちは、慌てふためく。

だが舞台監督は、わずかの間に知恵を絞って、きまぐれに言った座長のセリフに見合ったセットを作り、小道具を用意するのである。

絶対権力者である老練な座長。その座長の気を損ねないようにしながらも、次から次へと起こるハプニングに、機転を利かせて対処していく舞台監督。

これはまさに、「芸術家」と「職人」の関係ではないか

そこには深刻な対立もあるが、信頼関係もある。

「人生で起こることは、すべてショーで起こる」

これは、1953年に公開された映画「バンド・ワゴン」で使われた曲“That's Entertainment"の冒頭の部分の歌詞である。

だが、果たして本当にそうだろうか。

むしろ私には、

「人生で起こることは、すべて舞台裏で起こる」

と思えるのである。

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