夕飯時に押しかけるダメな親戚
ふだんの私は、本当にダメな人間である。
休みだからといって、体を動かすとか、登山に行くとか、自転車で走るとか、スポーツを観戦するとか、そういう前向きなことをいっさいしていない。
家族にとっては、本当に厄介者なのだろうと思う。
話は少しさかのぼって、映画「選挙2」を見に行った日(13日)。
生まれて1歳9ヵ月になる姪の顔をしばらく見ていないなあと思い、映画を見終わった夕方、妻と一緒に義理の妹の家に行くことにした。
「ついでに、夕食もごちそうになっちゃおう」と私。夕飯時に家に行こうとは、なんとも厚かましい親戚である。
妻と私は夏休みだったが、義理の妹とその夫は、通常通り仕事である。
義理の妹が姪を連れて帰ってくるころを見はからって、義理の妹のマンションに行った。
「あれ?いらっしゃるとは思いませんでした」
妻が1人で来ると思っていたらしい。
「カレー、足りるかなあ」
今晩の夕食はカレーだそうである。だが、急に客人が2人も増えたので、ご飯とルーの量が心配になったのだ。しかも、そのうちの1人は、大飯食らいときている。
「待っていてください。いま用意しますから」
そのあいだ、私は姪の相手をしようと思ったが、ビックリしたことに、姪は私の方を見向きもしない。
完全無視である!
しばらく会っていないから、忘れてしまったのか?
結局、姪の面倒をみることもできず、ふて寝をした。
ほどなくして、義理の妹の夫が帰ってきた。
…「義理の妹の夫」という表現が面倒なので、ふだん呼んでいる「課長」というあだ名を使うことにする。平社員だが、なぜか「課長」というあだ名なのである。
「ただいま」
課長が帰ってきたとたん、姪が課長のところに嬉しそうに駆けよった。私には見向きもしなかったのに。ま、当然といえば、当然である。
「いらっしゃい」
「おじゃましてます」
タイミングをはかったかのように、カレーが完成した。
「足りないかも知れませんね。すみません」と義理の妹。
悪いのは、夕飯時に押しかけたこちらの方なのだ。
仕事で疲れて帰ってきているのに、休みで暇をもてあましているからという理由で、夕飯時に押しかけるなんて、ほんと、サイテーの親戚である。
カレーを食べながら、課長が言う。
「この前、朝起きたら、胸が痛かったんですよ。最初は我慢していたんですが、あまりに痛いので、医者に行ったら、肋骨にヒビが入っている、って言われたんですよ」
「肋骨にヒビ?」私は驚いた。「どうしてヒビが入ったの?」
「それがまったく心当たりがないんです」と課長。
「ほら、原因はあれでしょう?ドクターストレッチ」と義理の妹。
「ドクターストレッチ?」
「僕、体がすごく硬いんです。それでドクターストレッチに通ってみたんです。…でもそれは、関係ないと思いますよ」
「それしか考えられないじゃない」と義理の妹が反論する。
ストレッチが原因で、肋骨にヒビが入ったのだろうか?だとしたら、そうとう軟弱な体である。ストレッチをするたびに骨にヒビが入ったのでは、危なっかしくてストレッチなんかできやしないではないか。ただ実際、課長は小動物のような感じの人なのだ。
「で、そのあと、病院から自転車で家に帰ろうとしたら、転けてしまいましてね」課長が続けた。「両膝をすりむいて、こんなになってしまいました」
そう言うと、課長は両膝を私に見せた。両膝には大きな絆創膏が貼ってあり、かなり痛々しかった。
「大丈夫かい?…そんなにハデに転んで、小学生じゃないんだから」と私。だが課長であれば、さもありなん、である。
肋骨にはヒビはいるし、自転車に乗ったらハデに転んで両膝をすりむくし、まったくどれほどツイていない人なんだ?
「カレーも食べ終わったことだし、そろそろ帰ろうか」と私。食べるものだけ食べたら帰るなんて、ほんと、サイテーな親戚である。
「あ、お帰りですか?」と課長。「玄関を出たら、セミに気をつけて下さいね。さっき僕、家に入ろうとしたらセミにおしっこ引っかけられましたから」
「ええええぇぇぇぇ!!セミにおしっこ引っかけられたの?」
「はい」
まったく、どこまで運のない人なんだ?
義妹の家を出たあと、妻が言った。
「世の不運を一身に受けたような人だね、あの人は」
俺にくらべたら彼はまだマシさ、と私は言いかけて、口をつぐんだ。
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