虚実皮膜のブラックスワン
映画「レオン」(1994年)を見たとき、ナタリー・ポートマンって、ほんとすごいなあ、と思った。
それからしばらく意識していなかったが、映画「ブラックスワン」(2010年)で、再びナタリー・ポートマンを見ることになった。
バレリーナのニナ(ナタリー・ポートマン)は、あるとき、演出家によって新作「白鳥の湖」のプリマに抜擢される。しかしこの新作では、純真な白鳥(ホワイトスワン)だけでなく、邪悪で官能的な黒鳥(ブラックスワン)も演じなければならない。まじめで優等生タイプのニナにとっては、ブラックスワンを表現するオーラに欠けていた。演出家もニナのオーラのなさを罵倒するのである。
さらに黒鳥役がふさわしい奔放な性格のライバルの出現も、ニナを精神的に追いつめていくことになる。ニナは、虚構と現実の狭間で錯乱状態に陥っていく。
技術はすばらしいがオーラのないニナ。ニナは、技術以上のオーラを獲得しようと、もがき苦しむ。舞台の上で輝くためには、現実の自分を変えなければならない。かくしてニナにとっての現実は、しだいに歪められていくのである。
優等生のニナ。それはまた、ナタリー・ポートマン自身のことでもあったのではないか。
ナタリー・ポートマンは、自分自身をニナに重ね合わせて演じていたのではないだろうか。
だからこそ、あれほどすばらしく演じられたのである。
芸の面白さは虚と実との皮膜にあるという「虚実皮膜論」を唱えたのは、近松門左衛門といわれているが、「ブラックスワン」におけるナタリー・ポートマンは、この「虚実皮膜」の間をさまよっているからこそ、鬼気迫る演技となっていたのではないだろうか。ニナが、虚実皮膜の間をさまよっていたように。
前回述べた、ドラマ「刑事コロンボ」の「忘れられたスター」における、ジャネット・リーもまたしかりである。
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