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忘れられたスター

ドラマ「刑事コロンボ」のエピソードの1つ「忘れられたスター」の犯人は、シリーズ中、もっとも哀れむべき犯人である。

Photo 往年のミュージカルスター、グレース・ウィラー(ジャネット・リー)は、自ら出資してまで、女優へのカムバックをめざしていた。ところが夫で医師のヘンリーは彼女の女優復帰に強硬に反対する。グレースは、どうしても出資を認めない夫を、自殺に見せかけて、殺してしまう。

実は夫が妻の女優復帰に反対したのは、妻グレースの健康上の理由だった。妻の脳に動脈瘤が発見され、このまま激しい運動を続ければ死に至ることを、夫は知っていたのである。そのことをグレースは知らなかったのである。

Photo_2 グレースは、反対していた夫の亡き後、女優復帰に向けて本格的に公演の準備をする。プロデューサーは、かつて俳優としてよきパートナーであり、グレースを心から愛していた、ネッド・ダイアモンド(ジョン・ペイン)だった。

グレースは、舞台でこそ輝いていた女性だった。そのことは、グレース自身が信じて疑わなかった。かつてのミュージカルスターは、いまでも人々に忘れられていないはずだ。私が舞台に立てば必ず、かつてのファンが見に来てくれるはずだ。そう信じて、自分の生き甲斐ともいえるミュージカルの練習に打ち込むのである。

しかし、老いによる体力低下に加え、病を抱えている彼女にとって、踊りの練習をしていても、思うように体が動かない。かつてのような切れ味は、なくなっていた。

プロデューサーのネッドは、彼女の衰えをカバーするため、相手役の男性として、若くて才能のある気鋭の踊り手をキャスティングして話題づくりに励むが、グレースは、自分の踊りがうまくいかないのは、相手役の若い踊り手のせいだとして責任をなすりつけ、その踊り手をクビにしてしまう。

グレースの周囲に実力派の踊り手をキャスティングすることで、彼女の衰えをカバーしようとするネッドの優しさは、グレースのプライドを傷つけるものだった。彼女は自分の「スター性」を、信じて疑わなかったのである。かくしてグレースは、さらに狭小で自己中心的な思考回路に陥り、錯乱してしまうのである。

グレースを演じたジャネット・リーがなんといってもすばらしい。ジャネット・リーもまた往年の名女優で、劇中では、ジャネット・リーが20代のときに実際に主演したミュージカル映画「ウォーキング・マイ・ベイビー」を、うっとりと鑑賞するシーンがある。まさに「虚実皮膜」の間を行き来するような、名演技である。ジャネット・リーは、かつての輝きを追い求めようとするグレースという女優と自分とを、重ね合わせていたのではないか、と思えるほどの、鬼気迫る演技である。

その意味でこの作品は、推理ドラマというよりも、女優論なのである。かつてスポットライトを浴び、スターの名をほしいままにした女優が、見果てぬ夢を追い求める姿が、哀しく描かれているのだ。

Photo_3後半、コロンボがネッドに、夫を殺した犯人が妻のグレースであるという推理を語る場面で、ネッドがコロンボに語るセリフが印象的である。

「君なんかにはとうていわからんだろうがね。スターとは、不思議なものなんだ。それは、奇妙な恍惚と、自己顕示欲を満足させてくれる。これをうまくさばける人はわずかな人しかいないんだ。かわいそうに、グレースには、それができなかった。彼女はたしかに野心がありすぎた。…しかし殺人なんて…。それも僕がずっと、…愛した人だ…。僕にはとても、そんなことは信じられない」

「でも、(殺したのは)あの方(グレース)なんです」

コロンボは、ネッドの思いを断ち切るかのようにきっぱりと言い放つ。

そしてこの物語は、シリーズ中、最も悲しく、切ない結末を迎えるのである。

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コメント

観ました
良かった

投稿: 盡命 | 2014年3月22日 (土) 04時34分

シリーズの中でも、屈指の名作ですね。

投稿: onigawaragonzou | 2014年3月23日 (日) 01時00分

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