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約束(ヤクソク)

「約束」は、韓国語でも「ヤクソク」と発音する。

9月7日(土)

朝、ご一行と別れて、チームの1人であるHさんと大邱に向かう。

お昼過ぎに仕事が終わり、Hさんと別れた。Hさんはこれからソウルに向かうのだという。

私は、というと、夕方5時から、大邱で約束があった。語学学校でお世話になった先生たちと夕食である。

3級のときにお世話になったナム先生が声をかけてくれて、2級のときにお世話になったクォン先生と、妻が師と仰いでいるチェ先生の2人も来ていただけるという。クォン先生とナム先生は1年ぶり、チェ先生とは2年ぶりである。

「何か食べたいものはありますか?」とあらかじめ聞かれていたので、

「ふぐプルコギが食べたいです」と答えた。

「ふぐプルコギ」は、文字通り、ふぐをプルコギにしたもので、大邱の名物料理である。

「この日は土曜日なんですけど、語学院の授業があるんです。夕方5時に授業が終わりますから、5時に大学の北門で待ち合わせましょう」

言われたとおり、午後5時に大学の北門に行くと、ほどなくして3人の先生がやってきた。

大学の近くの「ふぐプルコギ」屋さんに行く。

「昼食は食べましたか?」とナム先生。韓国では挨拶代わりに、必ずといっていいほど「ご飯食べましたか」と聞かれるのだ。

「ええ」と答えると、

「私たち、食べていないんです」という。授業が忙しすぎて、お昼を食べる時間がない、というのだ。

前々から語学院の先生たちの忙しさは知っていたが、お昼を食べる時間もないほど忙しいとは…。しかも土曜日である。

うちの職場なんか、どんなに忙しい忙しいなんて言っても、昼飯を食う時間はあるのだ。そう考えれば、恵まれていると考えなければならない。

Photo_2ふぐプルコギを食べながら、3人が話す会話は、ひたすら授業についてである。

学ぶ意欲のない学生にどうやって教えたらよいか、とか、上達の進度が遅い学生にどのようなことを配慮したらいいか、とか、最近の学生の気質はどのように変わったか、とか。お互いに困っていることを言い合って、解決策を考える。

思うがままにならない留学生たちに困らされる話を、ときに深刻に、ときに楽しそうに語る。

この人たちは、本当にプロだなあ、と思う。

私は、日本から持ってきたおみやげを3人に渡した。妻が用意したおみやげである。

とくに妻が師と仰いでいるチェ先生には、妻が書いた手紙も一緒に渡した。

感激したチェ先生が言う。

「以前も、お手紙をもらったでしょう?」。そういえば2年前に語学院に遊びに行ったときも、妻が書いた手紙を、チェ先生に渡したのだった。

「あの手紙、いまでも職場の机のところに貼っているんですよ」

チェ先生にとっても、妻は思い出に残る「ソジュンハン(大切な)」学生だったのである。

2次会は「ビールとチキンの店」に行く。こういう店のことを、韓国語で「맥치(メッチ)」という。

ここからは、ひたすら3人の先生のスダ(おしゃべり)である。

会話に参加したいと思うのだが、思うように言葉が出てこない。年々、韓国語の実力が衰えている。来年あたりはもう、まったく会話に参加できなくなるのではないだろうか、と不安になる。

こうなるともう、私は完全にでくのぼうである。

何年も前に卒業し、いまや韓国語も満足に話せない愚鈍なおっさんに対して、わざわざ時間を作って「スルチャリ」(酒の席)をもうけてくれたことが、申し訳なく思えてきた。

「キョスニム、『スラムダンク』読んだことありますか?」とチェ先生。

「いいえ」と答えると、3人はとてもビックリした顔をした。なぜあんなにすばらしい漫画を読まないのか、という顔である。

「『スラムダンク』を読めば、人生のすべてを学ぶことができますよ」とナム先生が力を込めて言う。

それから3人は、『スラムダンク』がいかに好きかを語りはじめた。

「わかりましたわかりました。必ず読みます。約束します」と私。

話は再び、語学院の話題に戻る。

中国人留学生が圧倒的に多いので、私たち3人も中国語を勉強しましょう、という話になった。

「スタディ」という方法で、中国語を勉強しようと、チェ先生が提案する。「スタディ」とは、喫茶店などに集まって、勉強会をすることである。

「じゃあ、来週からさっそく始めましょう」とチェ先生。「何曜日がいいかしら」

「火曜と木曜の夜はダメです。授業があるから」とクォン先生。

「じゃあ、月曜日と水曜日は?…あ、会議の日だったわねえ。金曜日は?」

「金曜日の夕方はダメです」とナム先生。

「じゃあ、時間が合わないねえ。…そうだ!いっそ午前中にしましょう。午前中なら授業がない曜日もあるし」とチェ先生。

「午前中なら私も大丈夫な曜日がありますよ」とナム先生。

「午前中は私がダメです」とクォン先生。

「そう、じゃあ全然時間が合わないわよね」とチェ先生。

3人の合う時間が、全くないというのだ。

語学院の先生って、どんだけ忙しいんだ?と、ハタで聞いていて驚いた。

「どうしましょうかねえ」3人はすでにやる気を失っている。

私は提案した。

「それならば、私もこれから中国語を勉強します。そしていまから1年後、この4人がまた集まったときに、中国語だけで会話をしましょう」

「なるほど、それはいいですね」とチェ先生。「1年後という目標があれば、がんばれそうな気がします。俄然やる気が出てきました」

私の提案は、そのまま受け入れられることになった。

「約束しましょう!ヤクソク」

Photoそう言うと、チェ先生が付箋になにやら書き始めた。

「1年後に、中国語で会話します。(4人の名前) 2013年9月7日 約束」

このように書いたあと、チェ先生が言う。「じゃあ、4人でこの紙を持ちましょう。約束のしるしに」

そしてその証拠写真を撮る。

「これで、中国語を勉強しなければなならなくなりましたね」

いままで何度となく挫折してきた中国語だが、この1年こそは、中国語をマスターしなければならない。

気がつくと、午後11時半である。午後5時から6時間半も喋っていたことになる。

別れ際、チェ先生が言う。

「1年後、必ず中国語で会話しましょう。約束ですよ」

この約束は、果たして守られるだろうか。

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