奇妙な友情
以前に書いてはみたものの、書いてみてあまりにわかりにくすぎたのでボツにした記事を、公開します。今宵はこれで、ご勘弁を。
映画「スターウォーズ」に出てくる、R2D2とC3POは、黒澤明監督の映画「隠し砦の三悪人」に登場する藤原釜足と千秋実をモデルにしている、ということは、映画ファンなら誰でも知っていることである。
しかし、この凸凹コンビが、日本を代表するドラマにも登場することは、意外と知られていない。
そう、それは、ドラマ「人間の証明」(1978年)の岸部シローと中丸忠雄である!
このドラマは、アメリカ人、ジョニー・ヘイワードの殺人事件を軸に話が進んでいくが、実はサイドストーリーがある。
銀座のクラブのホステスの小山田文枝(篠ひろ子)が、政治家の息子の運転していた車にひき逃げ去れ、殺されてしまう、という事件である。
病弱で無職の夫・小山田武夫(岸部シロー)は、翌朝になっても妻が帰ってこないのを不審に思い、妻がつとめていた銀座のクラブを手はじめに、妻を探し始める。数日後、妻に不倫相手の男性がいることをつきとめる。不倫の相手は、大手企業のサラリーマンの新見雅弘という男(中丸忠雄)である。
中丸忠雄といえばあーた、日本映画界を代表する名バイプレーヤーですよ。一流企業の管理職という役柄が、最もよく似合う俳優である。
それに対し、篠ひろ子の夫役を演じたのは、岸部シローである。岸部シローは、情けない男をみごとに演じている。
不倫相手の新見も、数日前から、文枝とまったく連絡がとれなくなってしまったことに、不審を抱いていた。自分たちの関係が、夫に知られてしまったのではないか、と、気が気でならなかった、というのである。
妻が失踪してから数日後、新見の会社に、文枝の夫の小山田が訪れる。
夫の小山田は、不倫相手の新見を疑うが、新見も、文枝が失踪した理由がわからない。
…ややこしいのは、文枝の銀座での源氏名が「ナオミ」であり、新見は、文枝のことを「ナオミ」と呼んでいる。もちろん夫の小山田は、文枝と呼んでいる。
「ナオミ、…いや、文枝さんを探しましょう」
「あなたに何がわかるんです?僕は文枝を愛していたんですよ」
「僕だってナオミ、…いや、文枝さんを愛していたんです」
「そんなこと、僕に言うことじゃないでしょう!」
「…そうでした。…すみません」
このあたりのちぐはぐなやりとりが、当人同士が真剣であるだけに、面白い。
社会的にも外見的にも、病弱で無職の小山田(岸部シロー)よりも、一流企業の管理職の新見(中丸忠雄)のほうが、立場的には上だが、だがこの関係性においては、小山田のほうが新見よりも優位に立っているのである。
こうして、夫の小山田(岸部シロー)と、妻の不倫相手の新見(中丸忠雄)の二人による捜索がはじまる。
当初は、反目しあっていた二人だが、やがて奇妙な友情が芽生えてゆく。
このあたりの早坂暁の脚本が、じつに面白い。
会社を休んで、小山田と一緒に文枝(ナオミ)の行方を執念深く捜索する新見。
ある日、行方の捜索が夜遅くまでかかってしまい、家に帰れなくなってしまう。
新見が小山田に言う。
「あのう…今晩、お宅に泊めてもらえないでしょうか…」
このセリフに、大爆笑である。中丸忠雄がくそ真面目に言うから、なおさらである。
かくして物語の終盤で、二人は確固たる友情を築いてゆくのである。
なんとも奇妙な友情である。
しかし早坂暁の脚本は、このサイドストーリーを、実に丁寧に描いてゆく。
それが、ドラマに深みを与えるのだ。
だから私は提唱したい。
岸部シローと中丸忠雄こそが、日本のR2D2とC3POなのだ、と!
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