ポンコツはどっちだ?
10月12日(土)
「前の職場」のイベント会場でのこと。会場は2階にある。
午前中の行事が無事に終わったあと、Kさんが、「あれ?」とつぶやきながら、何かモノを探している。
「どうしたんです?」
「Sさんからお預かりしたUSBメモリが、どっか行っちゃったんです」
今日の行事にかかわる一連のデータが入っていた、USBメモリである。
「それはまずいじゃないですか。あの白いUSBメモリですか?」
「ええ。でも先ほどSさんに電話をして聞いたら、バックアップはとってあるから、大丈夫だって言ってました」
Sさんはすでにこの会場を離れ、別の場所に移動中だった。
「でも預かったUSBメモリがなくなったというのは、やはり気になりますよ」と私。
「ええ。どこに置いてしまったんだろうなあ」
「1階の印刷室じゃないですか?朝、ポスターを印刷したとき、あのUSBメモリの中に入っているファイルを印刷しましたよね」
「そうでした。印刷室のパソコンにつけっぱなしかも…。1階の印刷室に行ってきます」
そう言うと、Kさんは階段で1階に降りていった。
しばらくして、戻ってきた。
「どうでした?」
「ありませんねえ。印刷室のパソコンからUSBメモリを抜いて、ずっと手に持っていたと思うんですが、どこかで無造作に置いちゃったんでしょうね。最近、よくやるんですよ」とKさん。
「ずっと手に持っていたでしょう?」
「ええ、印刷室を出たときも、手に持っていたと思うんですけどねえ」
「じゃあ、4階の作業部屋ではないですか?印刷室を出てから、一度立ち寄ったでしょう?そのときに、無造作に置いてしまったとか」
「そうでしょうかねえ。記憶にないなあ」
「とにかく、行ってみた方がいいですよ」
「そうですね」
Kさんは、今度は階段で4階の作業部屋に行った。
しばらくして、戻ってきた。
「どうでした?」
「やはりありません」
「ちゃんと探しましたか?」
「ええ」
「Kさん、一度、ご自身の仕事部屋に戻られたでしょう?」
「ええ」
「仕事部屋ではないですか?」
「そうでしょうか…」
Kさんの仕事部屋は、イベント会場とは別の棟である。
「ちょっと行ってきます」
今度はKさんは自分の仕事部屋に探しに行った。
しばらくして戻ってきた。「前の職場」は、エレベーターがないので、歩きまわったKさんはヘトヘトである。
「ありませんでした」
「おかしいなあ」
「もういいですよ。バックアップはあるんだし」
ヘトヘトなKさんは、すっかりあきらめ顔である。
「いや、そういうわけにはいきません。もう一度、ご自身のポケットをよーく調べてみてください」
Kさんは、ポケットの中に手を入れてゴソゴソと探してみるが、やはりUSBメモリは出てこない。
「やはりありません」
「うーん…。そうだ!Sさんにお返しした、ということはないですか?」
「記憶にないです」
「いや、無意識のうちにお返ししたんですよ。それをSさんが忘れてしまったのかも」
「そんな…」
「Sさんに電話をかけて聞いてみてください。USBをお返ししませんでしたか、と」
「そんな、Sさんを疑うようなことできません」
「いや、可能性はあると思いますよ」私も疑い深い。
「もういいですよ」Kさんはすっかりあきらめてしまった。
さて、それから数時間たった。
夕方、大学祭も終わり、もう帰ろうということになり、車の鍵を出そうと、私が自分のポケットの中をまさぐっていると、鍵とは違うものが入っていることに気づいた。
(何だろう?)
取り出すと、なんと!白いUSBメモリではないか!
「あったあった!ありました!」
白いUSBメモリは、なぜか私のポケットに入っていたのだ!
「どういうことでしょう?」私もまったく思い出せない。
Kさんが思い出したようだった。
「印刷室でポスターの印刷が終わったあと、私が手に持っているものを、いったんそちらに預けたんじゃなかったでしたっけ?」
「そうでしたっけ?」私は、ぜんぜん記憶にない。
一部始終を見ていたこぶぎさんが、呆れた調子で言う。
「ポンコツなのは、二人ともだよ」
ただ間違えなくいえることは、自分をまったく疑おうとせず、KさんやSさんを疑っていた私は、サイテーの人間だということだ。
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