TSUMAGOI
昨年の大学祭で、学生とアルトサックスのフュージョンバンドを組んで演奏をした。
渡辺貞夫「Nice Shot」、MALTA「Sweet Magic」「Morning Fright」の3曲である。
そのとき録画してくれた仲間が、「Nice Shot」だけ録り損ねたそうで、残念ながらあとから聴き直すことはできなかったのだが、なんとベースを担当した4年生のAさんが、このときの音源を持っているというので、CDに焼いてもらった。
私にとっては「幻の1曲目」を、1年たって、ようやく聴くことができたのである。
聴いてみると、私のアルトサックスは、すげえ下手くそである。
だが、サックスの音色を、渡辺貞夫のそれに近づけようとしているのが感じられ、われながら微笑ましい。
サックスの音色は、人間の声と同じで、演奏者によって一人一人異なる。たとえ同じ楽器、同じマウスピースを使っていても、おそらくぜんぜん違うのだろうと思う。
当然、渡辺貞夫とMALTAでは、音色がぜんぜん違うのだ。
でも私は、何とかナベサダの音色に近づけようと、かなり意識していることが、演奏からうかがわれた。
好きな歌手の歌い方をまねするように、好きなサックス奏者の音色に近づきたいと思うものなのだ。
つい懐かしくなり、動画サイトをいろいろと検索してみると、1984年11月18日に中野サンプラザで行われた、渡辺貞夫と東京フィルハーモニーオーケストラのジョイントコンサートを収録した、FM東京「渡辺貞夫 マイ・ディア・ライフ」(1984年12月15日放送)から、「ナイス・ショット」の1曲がアップされていた。
すげえ懐かしい!
私も高校生の頃、この回のラジオを、リアルタイムで聴いていた。このコンサートがとてもすばらしく、録音したテープを何度も聴いたものだが、いまではどこかに行ってしまった。
このときのコンサートで演奏した「TSUMAGOI」という曲が、とても好きだった。この曲のことが、ずーっと頭から離れなかった。
「TSUMAGOI」は、私が知る限り、スタジオ録音されたものはなく、音源化されているものとしては、1980年7月3,4日に、武道館で行われたコンサートを収録した「How'sEverything」というアルバムに、フルートでメロディを吹いているバージョンがおさめられているものだけである。
1984年の中野サンプラザのコンサートでは、アルトサックスでメロディを吹いていて、私は断然、こちらの方が好きだった。
オーケストラとジョイントするときは、必ずこの「TSUMAGOI」を演奏するのだが、残念ながら、アルトサックスでメロディを吹いたものが音源化されたことはない。
さらに動画サイトを探してみると、同じ人が、「題名のない音楽会」という音楽番組で渡辺貞夫が出演している回をアップしていることがわかった。
私は見た記憶がなかったが、ここでも、東京交響楽団をバックに、「TSUMAGOI」や「Nice Shot」を演奏している。
「Nice Shot」は、渡辺貞夫の、最も渡辺貞夫らしい曲とされているのだ!
さて、「TSUMAGOI」を演奏する前の、司会の黛敏郎と渡辺貞夫の会話が、とても興味深い。
まず、「TSUMAGOI」の曲名の由来である。
ナベサダがある時期、曲作りのさいに滞在していた静岡県掛川市の、「ヤマハリゾートつま恋」からとったというのである。つまり地名である。
もう一つ、二人の掛け合いの中で、ナベサダの音楽が、アメリカ、ブラジル、アフリカ、インドなど、世界各地の音楽の影響を受けていることを紹介したあとで、黛敏郎が、
「日本の音楽の影響は受けていないのか?」
と質問する。いかにも、黛敏郎らしい質問である。
これに対してナベサダは、「日本の音楽は、敬遠していたんです」と答える。
「しかしあなたのお父さんは、薩摩琵琶の名手だったんだから、日本的なセンチメンタリズムが入った曲もあるんじゃないですか」
と、黛敏郎が食い下がる。これに対してナベサダは、
「そこらへんは、…僕が日本人であるということで勘弁していただいて…」
と、上手くかわすのである。
このあたりのナベサダの気負わない答え方が、実に素晴らしい。
こんなふうに生きられたら、どんなに素晴らしいだろう、と、あらためて思う。
さて、このやりとりのあと、「TSUMAGOI」の演奏がはじまるのだが、ここであらためて気づく。
渡辺貞夫のこれまでの曲の中で、日本語のタイトルがついているのは、この「TSUMAGOI」だけである。
曲調も、実にセンチメンタルな雰囲気である。
黛敏郎が、おそらくはこの曲を念頭に置いて「日本的なセンチメンタリズム」の要素を問うたのも、うなずけるような気がする。
では、お聴きいただきましょう。
渡辺貞夫で、「TSUMAGOI」です。
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コメント
とぅるるるるる
がちゃ
機械音声 ただいま電話に出ることが出来ません。横綱犬留守番サービスにおつなぎいたします。
声 もしもし。
鬼瓦 もしもし、こぶきさんのお宅ですか?
土佐司 そうだワン。でも、ご主人様は昨日からずっと、「書けん日が書けん、書けん日が書けん」と、うわ言のように繰り返しているので、電話には出られないワン。
鬼瓦 こぶぎさん、大丈夫ですか?
土佐司 いよいよ3つの締切が同時に押し寄せてきてしまって、昨日はとうとう、禁じ手にしていた「研究室徹夜合宿」をせざるをえない状況に陥り、徹夜のまま今日の授業に臨んだものだから、変なハイテンションで突っ走ってしまったそうだワン。まったく、話の着地点が見えない、「ひもなしバンジー」みたいな授業だったようだワン。
鬼瓦 それじゃ、韓国映画「バンジージャンプする」そのままじゃないですか。
土佐司 それに、台風は来るわ、芋煮はするわ、足の親指は痛いわ、映画祭はあるわ...と、今週はもお、忙しすぎて、すっかり記憶が飛んじゃっているようだし。
鬼瓦 そう言えば「ドリアン助川」の話を先週の台湾料理会議で聞いたんですが、結局見に行けたんですか?
土佐司 ドリアンはおろか、韓国映画の「ポエトリー」だって見れずじまいだったそうだワン。そのくせ、映画祭の前売り3回券を買ってしまったものだから、クソ忙しいなか、6時間ぶっ続けで映画を見たものの、結局チケットは全部使い切れなかったそうで。
鬼瓦 それは気の毒に。
土佐司 ところで、鬼瓦さんが直接電話をかけてくるなんて、とても珍しいワン。どういう風の吹きだまり、いや吹き回しだワン?
鬼瓦 いや、ちょっとシステムが変わりましてね。今月から、吹きだまりブログのコメント欄への書き込みを3回休んだ人には、こちらから電話をかける決まりになったんです。
土佐司 でも、忙しすぎるからコメントが書き込めないのに、電話をかけてきても、出られるはずないワン。
鬼瓦 私としても、横綱犬さんとは何の面識もありませんし、正直何を話せばいいか、困っているんです。全くどうかしてますね。
土佐司 では、明日はいよいよご主人様の講演会の日ですが、まだ全然予習も出来ていないので、このへんで。綱渡りの日々はまだまだ続くワン。
投稿: 留守番犬だワン! | 2013年10月18日 (金) 18時25分
A また、コメントの新しいパターンですね。
B 本人が忙しくて不在で、その代わりに留守番犬の土佐司号が登場するパターンですね。まるでウルトラセブンのカプセル怪獣だ。
A うまいこというね。…ところでこの時期、この業界の人たちがまるでダジャレのように「書けん、書けん」って言ってるね。
B たぶん全国の同業者たちがいっせいにこのダジャレを言っていると思うよ。「じぇじぇ」「倍返しだ!」以上の流行語だと思うぞ。
A 流行語というより、「この業界あるある」だね。鬼瓦さんも今年は書かなきゃいけないはずなんだが、書けたんだろうか。
B ブログでは映画三昧みたいなことを書いているけど、とりあえず「第一弾」は出したみたいだぞ。
A 第一弾?
B 何回か手直しして、最終的に仕上げるのだが、その第一弾の締め切りが、今週の火曜日だったんだが、1日遅れて水曜日に出したそうだ。
A 遅れたらダメじゃないの。
B ところが蓋を開けてみたら、まだ出してない人がけっこういたそうだ。
A じゃあビリということではなかったんだね。
B まああまり誇れることじゃないけどね。
A ところで上の会話で、看過できない内容が。
B 何です?
A まず、禁じ手の「研究室徹夜合宿」。
B ああ、あれはやってはいけません。それをしてしまったら、もう終わりです。
A そうですよね。どんなに切羽詰まっても、これだけはやってはいけません!
B ほかにもありますか?
A ありますよ。「足の親指が痛くなった」って話。
B それってまさか…。
AB 痛風???!!!
A もしそうだとしたら、もうかなりヤバイですね。
B そんな中で迎える明日の講演会。はたしてどうなりますことやら。続きは後日のコメント欄で!
投稿: onigawaragonzou | 2013年10月18日 (金) 22時43分