気分はコピーライター
11月22日(金)
うちの職場では、半年間ないし1年間、海外留学した学生のことを、「短期留学生」という。
今年度は、海外に短期留学した学生が多く、今年の秋に、留学を終えて、次々と帰国した。
同僚のNさんと、「じゃあ、短期留学から帰ってきた学生たちの報告会をやりましょう。彼らが海外で何を感じたか、それを語ってもらえば、この先も、留学しようと思う学生が増えるかも知れない」と盛り上がった。何度も海外留学を経験しているNさんはもちろん、韓国留学を経験した私にとっても、1人でも多くの学生に、留学してもらって、何かを感じてもらいたいと思ったからである。
さっそく関係の委員会に提案したところ、「やりたいのならどうぞ」といった雰囲気だった。まあ、いつものことである。
イヤむしろ、そういう反応の方が、こちらとしては盛り上がるのである。なにしろ私は、「頼まれてもいない仕事に精を出す」ことが、好きなのだ。
どうせなら、人目をひくポスターを作って、大々的に宣伝しようではないか。
報告会も、たんなる報告ではなく、参加した学生たちがおもしろいと感じ、その気になってくれるようなイベントにしよう。
ということで、企画を立てることにした。
で、火曜日の夜に、Nさんからポスターのデザイン案が送られてきた。今度はそれを、私が印刷して宣伝する番である。
水曜日はまる1日、仕事で拘束されていたから、木曜日に、Nさんのデザインした原稿を、大型印刷機でB2サイズの大きさのポスターに仕上げ、職場の各所に貼ることにした。
「やりたいのならどうぞ」と思われている仕事なので、誰にも頼めない。というか私は、あまり他人を信用していないので、頼めないのだ。
24インチのロール紙を使って、B2サイズを印刷すると、どうしても「余白」というか、フチができてしまう。食パンでいうところの「耳」の部分である。それを1枚1枚、定規とカッターで切り落として、ポスターを完成させていく。
昨年、イベントのポスターを何度も手作りしたので、手慣れたものである。
木曜日の夕方、できあがったポスターを、1人で各所に貼った。
しかし、できあがったポスターを見て、あとで気づいた。
留学体験を語ってくれる学生6人の名前が、入っていなかったのである。
同僚のNさんも同じことを思っていたようで、「名前を入れればよかったですね」とメールが来た。
気づいちゃったものは見過ごすわけにはいかない。もう一度、ポスターを作り直すことにした。
今日は車で40分ほどかかるS市で仕事があり、職場に戻ったのが、6時過ぎである。夕食を終えてから、6人の名前を入れたポスターに作り直し、印刷作業にとりかかることにした。
再び印刷室の大型プリンターで、ポスター印刷を始めるが、1つ問題があった。
それは、フチを切り取るためのカッターと定規がないことである。
木曜日の作業のときは、事務室の職員さんにカッターと定規を借りたのだが、いまは勤務時間を過ぎてしまったため、事務室には鍵がかかっており、カッターを借りることはできない。
仕事部屋にもない。
構内を探しまわるが、どこにもカッターがないのだ。
つまり、公共の場には、カッターが置いていないのだ。
犯罪防止なのか?それとも、思い詰めた人が使わないための措置なのか?
よくわからない。
あるのは、印刷室にある小さなハサミだけである。
仕方がないので、ハサミで、フチを切り取ることにした。
やってみて気づいたのだが、ハサミだけで十分にまっすぐ切れるものなんだね。
ハサミを固定して、適度な速さと力で紙の方を動かし、紙の動きに身を任せると、スーッと、まっすぐ切れるのだ。
なあんだ。カッターなんかいらないんじゃないか。
だんだん、そんな技術ばかり覚えていく。
いったい俺は何なんだ?と、1人で苦笑する。
そういえば、高校時代のあこがれの職業は、「コピーライター」だった。それで毎月、雑誌「広告批評」を読んだりしていた。
このポスターのキャッチコピーと文面を考えたのは、私である。
もちろん、そのキャッチコピーじたいはたいしたことないかも知れないが、いま私は、まぎれもなく、高校時代にあこがれていたコピーライターのまねごとをしているのである。
どうりで、こういう仕事が苦にならないわけだ。
あらためて気づく。
たとえ、いまはあこがれの仕事に就いていなくても、かつてあこがれた仕事の、そのまねごとをするチャンスは、訪れることがあるのだ、と。
夜10時すぎ、手直ししたポスターを職場の各所に貼り直す作業が終了した。
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