幻の懺悔サミット
3年ほど前、私が毎回司会進行をつとめる委員会の会議で、8分36秒1という史上最短時間で、会議を終わらせたことがある。
…という話を、前回書いた。
「8分36秒1」というタイムは、その会議に出席していたある同僚が、たまたまそのとき持っていたiPodのストップウォッチ機能により計測したもので、会議終了後、私にメールで知らせてくれたのである。
しかしよくよく考えてみると、不思議である。
その同僚は、会議が始まると同時に、iPodのストップウォッチ機能を使って、会議の時間を計測したのだろうか?もしそうだとすると、その同僚は毎回、会議の時間を計っているのか?それとも、たまたま気まぐれに計ってみたところ、史上最短時間の記録が出たということなのか?
「8分36秒1」というのは、その同僚特有のジョークで、もともと時間など計測していなかったのではないか、という気がしてきた。
その同僚はもう転出してしまったし、3年も前のことを、いまさらほじくり返すのは、野暮というものかもしれない。
「8分36秒1」というタイムを知らせてきた同僚のメールをあらためて読み返してみると、そのあとに、こんなことが書いてあった。
「ところで私は来月10日に、東京の学会で研究発表をするそうです。
いつも以上にやる気が出ず、このままではプチ死にたいどころか会場で切腹して果てることになりそうです。その時は介錯をお願いします。旅費は研究費から出します。
どうして何かやろうとすると、あれも読んでない、これも読んでない、ということばかりが走馬灯のように目の前を回るのか?と思います。
まあこういうことでもないと、ずっとダラダラして勉強しないからな、こういうのも警告と思うしかないな、と無理矢理ポジティヴに考えつつ、日本刀を研いでおります。
そのうち、後悔の多い研究生活を送っている者で集まって、懺悔サミットでも開きませんか」
こんなことが書いてあったなんて、すっかり忘れていた。
私からすれば、うらやましいくらいに、着実でスマートな研究生活を送っている人、という印象があっただけに、「いつも以上にやる気が出ず、このままではプチ死にたいどころか会場で切腹して果てることになりそうです」という、ダメ人間的な発言は、とても意外であった。
「プチ死にたい」という表現は、私がこのブログでよく使う、「軽く死にたくなる」という表現と、まったく同じである。
やる気が出ない、とか、軽く死にたくなる、というのは、決して自分だけではないのだ。
多くの同業者がそうした苦悩と戦いながら、この稼業を続けているのだ。そうに違いない。
そしてそれを無理矢理ポジティヴに考えようと、第三者に宣言することで、自分に言い聞かせているのであろう。私も今までそうやってきた。
さて、そのメールに対する私の返信も残っていた。
「偶然ですね。この日、私も東京で研究発表をするそうです。まったく準備してません。当日はお互いが日本刀で斬り合うことになるかもしれません」
このときの研究発表がどういう結果になったかは、まったく覚えていない。
「懺悔サミット」が行われた記憶もない。
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