キネマの天地・ふたたび
山田洋次監督の映画「キネマの天地」(1986年)。
この映画は、日本映画の草創期である1930年代半ばを舞台にした、有森也実演じる「田中小春」という架空の女優の、成長物語である。
浅草の映画館で売り子をしていた小春が、ある日、映画監督の目にとまり、女優の道に進むことになる。
天性の愛くるしさをもつ小春は、下積みの時期に苦労しながらも、しだいに観客の注目されるところとなり、やがては、映画会社の看板女優として成長する。
それまで無名の新人だった小春が、あるとき、映画の主演女優に抜擢され、一躍スターになったところで、この映画は終わる。
これは、有森也実という女優自身の歩みとも、シンクロしている。
この映画は当初、藤谷美和子が小春役を演じる予定だったが、降板したため、急遽、当時新人女優だった有森也実が抜擢された、というのは、有名な話である。
まさに「虚実皮膜のあいだをさまよう」ような映画といえる。
有森也実は、私とほぼ同い年だったこともあり(正確には私が1学年下だが)、デビュー当時から、ひそかに注目していた。1984年にフジテレビが放送した岩井小百合主演の「クルクルくりん」という、漫画が原作のドラマを見たとき、主役の岩井小百合よりも、脇役の有森也実に強く惹かれたのである。
このドラマを見ていた人、いるかなあ。こぶぎさん、見ていたかなあ。
それが、1986年に山田洋次監督の映画「キネマの天地」で、いきなり主役に抜擢されちゃった。まさに小春を地でいくような女優人生である。
これに対する私の気持ちは、複雑である。ひとつは、まだ誰も注目されていない頃から注目していた私にとって、「どうだい、俺も見る目があるだろう」という気持ちである。
その一方で、その成功に喜びながらも、みんなに注目されてしまったことに、逆に冷めてしまったのである。「もうすっかり、遠い存在になってしまったなあ」と。
これは今でいえば、無名だったころから注目していた韓流スターが、有名になっていくときの気持ちによく似ている。
ファンというのは、かくも身勝手な勝手な存在である。
まあ、どうでもいい話なのだが、ふと思い出したので、書いてみた。
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