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10年を駆け抜けた流星

沢木耕太郎『流星ひとつ』(新潮社、2013年)は、藤圭子が28歳で歌手を引退する直前の、1979年秋に行われたインタビューをまとめたドキュメンタリーである。

よけいな描写も写真もなく、ただひたすら二人の会話が続くが、その会話は、終盤に近づくにつれて、じつに感傷的になってゆく。

「あなたがデビューしたのは、1969年の秋だったよね。そうか、あなたは本当に70年代を歌い続けてきたんだね。そのあなたが、1979年12月26日ですべてを終える。…ちょうど10年だったんだね」

「そうなんだね。区切りがよくて、いいね」

「やめるとなると、さみしい?」

「十年もやれば、いいよね」

「そうだね。次の何かをまた見つければいいんだろうな」

「うん、そうする。また…何か…」

「それでいいさ」

そして最後に二人は、8杯目のウォッカ・トニックを注文し、ホテルニューオータニ40階の「バー・バルゴー」の窓から見える三日月を眺めながら、乾杯するのである。

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