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卒業生との再会

12月17日(火)

午後、仕事部屋の扉を開けて廊下に出ようとすると、今年の3月に卒業したAさんが立っていた。

「お久しぶりです」

「どうしたの?」

「私、試験に合格して、来年4月から地元の市役所に勤めることになりました。それで、報告に来たんです」

「そう!それはよかった」

わざわざ報告に来てくれたのである。Aさんにとっても、地元で就職することを希望していたから、何よりである。

さて、そのあと。

所用で、ある部局の事務室に行き、打ち合わせをしていると、

「ありがとうございました。失礼します。またうかがいます」

と、その部局の事務室に立ち寄って、挨拶をして帰る人がいた。

聞き覚えのある声である。

慌ててその人の後を追う。

Oさんだ!

いまから12年前、「前の職場」で、私のゼミに所属していた学生だった、Oさんである。

「懐かしいねえ」

「先生!覚えていてくれたんですか!」

「あたりまえじゃないか!どうしてここに?」

「いま、仕事の休みの日に、この部局に来て勉強させていただいているんです」

「そうだったのかぁ」

「先生がこの職場にいらっしゃることは知っていたんですが、まさかお会いできるとは…」

Oさんについては、以前、「卒業生」というタイトルで、このブログに書いたことがある。2010年6月の記事である。以下、引用する。

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私がこの稼業についたのは、いまから10年ほど前である。

最初の職場は、短大だった。

2年半の短い間だったが、私の最初の勤務地ということもあって、ここでいろいろなことを学んだ。いまの私があるのも、ここでの体験が大きく影響している。学生たちもみな、まじめで個性的だった。そんな学生たちに、私は鍛えられたのである。

短大なので、4年制の大学に編入を希望する学生も多かった。

私の研究室に、Oさんという学生がいた。

Oさんは、とてもまじめだが、とても不器用な学生だった。

Oさんは、地元の4年制の大学に編入したいと思い、試験を受けた。試験は、外国語と小論文と、面接である。

だが残念ながら、結果は不合格だった。Oさんは、編入をあきらめ、地元で就職することにした。

Oさんの不合格がわかったあと、その時に面接を担当していたK先生とお話しする機会があった。

実はK先生は、私の出身大学の先輩で、しかも同じ研究室に所属していた。だから、以前からよく知っている先生であった。

「Oさんは残念だったね」と、K先生。

「面接の時、『卒業後の進路はどのように考えてますか?』と聞いたら、Oさん、何て答えたと思う?」K先生は私に質問した。

「さあ」と私。

「『○○先生のような教師になりたいです』って、答えたんだよ」

「○○先生」とは、私のことであった。

「唐突に君の名前が出たんで、ビックリしちゃったよ。あんまり唐突だったもんで、『○○先生って、誰ですか?』って聞いたら、『私のゼミの先生です』って」

「そうだったんですか…」

そんな話、当然のことながら、Oさんからは何も聞いていなかった。Oさんは何も言わないまま、卒業した。いまから8年ほど前のことである。

卒業してから、Oさんには会っていない。Oさんがいま、どこで何をしているのかも、わからない。

でも、私がいまの仕事に自信を失いかけるたびに、この話を思い出しては、もう少しこの仕事を続けられるかもしれない、と思うことにしている。

Oさんは、そんなことを言ったことなど、とっくに忘れているかも知れないけれど。

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だから、私がOさんについて忘れるはずはないのだ。

もう会うこともないのだろうな、と思っていたのだが、Oさんは勉強のために、この部局が主催するプロジェクトの勉強会に参加しているのだった。私はつい先日、このプロジェクトの一環としておこなわれた「イベント」で、コーディネーターをつとめたばかりであった

何というつながりだろう!

Oさんは学生時代、やはり私のゼミ生だったIさんととても仲良しだった。二人はゼミの中では目立たないほうだったが、私はこの二人の真面目さが、とても好きだった。

「Iさんはいまどうしてるの?」私は聞いた。

「Iさんは隣県の地元で、結婚したんですよ」

「いまでも二人で会ったりするの?」

「たまに会いますよ」

話しているうちに、思い出したことがあった。

「学外実習で、関西に行ったときのことを覚えてる?」

「ええ、覚えてます」

「前の職場」では、2年生になると、ゼミごとに「学外実習」に行くことになっていた。私のゼミでは、夏休みに関西方面に行くことにしていた。

「あのとき、『ほかのゼミ生には内緒だよ』といって、OさんとIさんと私の3人だけで、夕ご飯を食べに行ったよね」いまなら、絶対にできないことである。                                  

「覚えてますよ。お好み焼きでしょう」

「お好み焼きだったっけ?」

「そうです。お好み焼きです」

「ひょっとして、店の作りが、間口が狭くて奥行きのある…」

「そうです」

私はそのときのことを完全に思い出し、思わず大笑いした。

その店は、今年の実習で、学生たちを連れて行ったお好み焼き屋さんだったのだ

人間の行動パターンって、ぜんぜん変わらないものなんだなあ。

「よく覚えていたねえ」私は驚いた。

「いまでもIさんと会うと、必ずその話になるんですよ」

そのときのことが、二人にとっても思い出だったらしい。

「またIさんと3人で、お話ししたいねえ」

「こんどIさんを、こっちに呼びますよ」

さてさて、実現するかはわからない。

「また、仕事が休みになったら、こちらに勉強しに来ます」

そう言って、Oさんは帰っていった。

「前の職場」で、Oさんが学んだのが、いまから12年前のことである。2年間の学生生活だった。

それから12年がたち、あのとき学んだことの学び直しを、Oさんはいま、しているのだ。

もちろん、私が2年間で教えることのできたことなど、微々たるものである。

だが、そのことが、確実に、いまにつながっている。

これを「教師冥利に尽きる」と言わずして、なんと言おう。

昨日、職場で、とても不愉快なことがあった。

しかしそんなことは、ささいなことかもしれない。それよりも、人生では、時々こういうことが起こる。

だからはっきりと言えるのだ。

人生は、捨てたもんじゃない、と。

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