居残り佐平次
先日、「これからは軽やかに生きる」などと、ガラにもないことを書いたが、そもそもこんなことを書いたのは、自分がどんな人間に憧れるか、と考えたとき、落語に出てくる「居残り佐平次」だったことを、思い出したからである。
正確に言えば、川島雄三監督の映画「幕末太陽伝」に出てくる、フランキー堺演じる居残り佐平次である。
映画「幕末太陽伝」は、落語「居残り佐平次」をベースに、「品川心中」「三枚起請」「お見立て」などの落語をちりばめ、そこに幕末の志士たちも登場してくり広げられる、日本を代表する喜劇映画である。
文久2年(1862年)、江戸に隣接する品川宿。カネはないが才覚はある佐平次は、江戸・品川宿の遊郭旅籠である相模屋で仲間たちと豪遊するが、カネがないのを若衆に打ち明けると、一人、居残りと称して相模屋に長居を決め込む。
「居残り」佐平次は、下働きからはじまり、客あしらいや女郎衆のトラブル解決に至るまで、相模屋の中を軽やかに駆けまわり、八面六臂の活躍をする。やがて誰もが、佐平次を頼るようになる。さらに彼は、この旅籠に逗留する攘夷派の志士たちとも渡り合う。
一つ屋根の下でさまざまな出来事が同時に起こる映画の形式を、古い映画のタイトルにちなんで「グランドホテル形式」と言うが、この「幕末太陽伝」は、日本におけるグランドホテル形式の映画の傑作である。というより、日本の映画史上で五本の指に入る傑作である!
佐平次を演じるフランキー堺の芝居の軽やかさは、見ていてじつにすがすがしい。この映画を見たとき、「こんな人間に憧れるよなあ」と思ったことを、思い出したのである。
「首が飛んでも動いてみせまさぁ」
映画の中で佐平次が大見得を切るこのセリフが、彼の生き様をよくあらわしている。
| 固定リンク
「映画・テレビ」カテゴリの記事
- 「四月の魚」再考(2023.01.28)
- いまになってわかること(2023.01.01)
- 蒲殿の活躍(2022.12.30)
- ストレンジワールドとすずめの戸締まり(2022.11.27)
- エンドロール(2022.11.25)
コメント