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創作落語「新・寝床」改め「てんてこ舞い」

鬼瓦亭権三(ごんざ)でございます。アタクシの好きな落語に「寝床」ってのがありましてね。今回の噺は、それをちょっともじったものでございます。

「策士、策に溺れる」とはよく言ったもので、あんまり気をまわしすぎますと、かえって自分にはね返ってくるなんてことは、よくあることでございますな。

ご隠居ー!

おう、だれかと思えば八っつあんじゃないか。気が合う、てえのか、合縁奇縁てえかねえ、お前さんとなんとなく日に一度会わないと、どうも御膳が旨くないような心持ちよ。

そうでしょ。あっしもそうなんだ。隠居さんの気が合う、てえのかねえ。日に一度顔を見ないというと、その日なんとなく「通じ」がなくてしょうがなくってね。

人の顔で「通じ」をつけやがる。どうもあきれたねえ。今日はどうした?

ほかでもねえ、大家の若旦那のことなんでさあ。

大家の若旦那がどうした?

最近、義太夫に凝っちまいましてね。長屋の連中に、義太夫を聴かせてやるから集まれと、こう言うんですよ。

なかなか粋な趣味じゃないか。

それがそうじゃありませんで…。その若旦那の義太夫ってのが、こう、ひどい声でしてねえ。とても下手で聴いちゃいられないんで、聴くと心持ちが悪くなるって次第で。

なるほど、昔から下手な義太夫語りのことを「五色の声」と言ってな。「まだ青き 素(白)人浄瑠璃 玄(黒)人がって 赤い顔して 黄な声を出す」などと言ったもんじゃ。

ほう、うまいこと言うねえ。さすがご隠居。いよっ!

からかうやつがあるか。…で、相談というのは何だ?

今度、長屋の連中が義太夫を聴きに来いと呼ばれているんですが、なんかこう、聴かずにすむ方法ってのが、ないもんですかねえ。

ふむ、そういうことか。…その長屋には、どんな連中がおるのか?

あっしのほかに、金物屋に小間物屋に鳶の頭に、それに豆腐屋です。

八っつぁん、おまえたしか提灯屋だったな?

へえ。

だったら、それぞれに理由(わけ)を作って、その日は聴きに行けない、と言えばよい。

そんなことができますかい?

できるとも。

じゃあ、あっしはどうすりゃいいんです?

「開店祝いの提灯を山のように発注されて、てんてこ舞いです」と、こう言うんだ。

なるほどねえ。うまい言い訳だねこりゃ。じゃあ、金物屋は?

「無尽の親もらいの初回だから出席しない訳にはいかない」と、こう言えばよい。

小間物屋は?

「女房が臨月だから」と、こう言いなさい。

ほう、たしかにあすこは、カカアをもらったばかりだからなあ。鳶の頭は?

「成田山へお詣りの約束がある」とでも言いなさい。

なるほど。じゃあ豆腐屋は?

「法事に出す生揚げやがんもどきをたくさん発注されて大忙しだ」と、こう言う。

ほう、うまいことを考えるもんだ。

こういうときにはな、相手の気分を害さずに断る知恵というものが必要だ。しかも、あからさまではなく、それとなく断るってのが大事だぞ。

さすがご隠居。ダテに長生きはしていないねえ。それにしてもご隠居、よく知恵が回りますなあ。まるで策士だ。

おいおい、策士だなんて、人聞きが悪い。

さっそく長屋の連中に教(おせ)えてきます!

数日後。

ご隠居ー!

八っつあんか。どうした?例の件は。うまくいったか?

それがうまくいかなかったんで。

なぜだ?

教えてもらったとおり、長屋のみんながあれこれと理由をつけて断ったら、今度は店の使用人たちに聴かせようとしまして…。そしたら使用人たちは、やれ腸チフスだの、やれウドンコ病だの、やれジステンパーだのと、全員が仮病を使って、聴こうとしません。

ほう。

で、さすがに若旦那が腹を立てて、義太夫を聴かなかったら全員「店(たな)立て」だ!と、こう言うんです。

長屋から追い出すってことか?

へえ。それで仕方なく聴きにいったんですが、まあこれが下手なこと下手なこと。こうなりゃ酒でもかっくらって寝ちまえってんで、義太夫を聴くふりをして酒をがぶ飲みして、全員居眠りしちまったんです。

ほう。じゃあ若旦那はカンカンだったろう。

へえ。でも、丁稚の定吉が一人だけ起きておりましてね。ひどく泣いているんです。若旦那はそれを見て、自分の義太夫に感動して泣いているんだと思って、どこに感動したのか?と、定吉に聞いたんです。

ほう、それで?

そしたら定吉、「みんなが寝ちまって、自分の寝床がないんです」と。

なるほど、こりゃあ可笑しい!まるで落とし噺のようだな。ま、ともあれ、これで一件落着じゃないか。

おかげさまで。

そうそう、最近わしは俳句をはじめてな。今日もいくつか作ってみたんだが、どうだ、ちょっとわしの作った俳句を聞いてみないか。

すいません、ご隠居。

どうした?

あっしはいま、開店祝いの提灯を山のように発注されて、てんてこ舞いなんです。

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